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    エッセイ(雑記)【3】NHK教育と無頼派~2(了)





    (1127字)
        気になって見やると、初めて観ていたのでTV中継をされる際のルールそのものを知らなかったのだが、隣りに座る人はどうやら譜面を読み上げる仕事で、先手○○、後手○○などと進行状況を逐一口頭で読み上げていく係のようだ。

     棋盤を前にして対峙[タイジ]する中年に差し掛かった、TVに映っているにも関わらず野暮ったいとも言える見た目をほとんど気にすることもない男性二人と、奥で神妙な面持ちに対局の補佐的な役割をしている彼女とでは全く人種が違う、といった感じを受けたのだ。それは私が持った印象を素直に口にするという意味では、決して嘘や大げさなものではないと言ってもいい。
     改めて男女を見比べて、前面にいる対局者の中年棋士が妙に淫猥[インワイ]な雰囲気を伴わせているのだ。一人の髪はちぢれボサボサであちらこちらに乱れ放題――そしてしょっちゅう頭を掻きむしり、時間が経過して少しだけ落ち着いてきた髪は、またしても破滅的な髪型に逆戻りすることになる。
     また、無精ひげもまさに何も手を加えずに放っておいてある無頼の風体[ブライノフウテイ]とでも表現しようか、自分の身の回りに敢えて一切気を使わず、さらに言えばそんなことを気にする必要もない、暇が、意味がないとでも主張しているのだろうか、しかし表情には一切の堅さもなければ険もなく、想像する年齢の割に肌ツヤだけは悪くない。ほのかに赤らんだ血色のお陰かシワも目立たず、随分と力が抜けて気楽にも口角を片方上げ、周囲の空気全体を冷やかしながら楽しんでいる。
     まずは汚らしい風貌のオッサン、というのは事実ではあっても同時に表面的な印象でしかなく、隠されたその奥は何であるかと、画面を見守るこちら側にじわりと染み込む存在感をもって確かに差し迫るのだ。
     もう片方は見た目は対局者ほど強烈なものではないにせよ、それでも綺麗に揃えられた口ひげが逆に卑猥な印象を少しだけ与えもしたが。とにかく棋士二人がなんとなしに、ただ確実に時計係の女性に対して目には見えない性的な匂いとでも表現したらいいか、そういったものを発して――彼女も十二分に理解して、同時に敢えて素知らぬ振りをし続けて――いるように感じたのだ。

     朝からなんとも馬鹿馬鹿しいことを考えてしまったと、我ながら呆れてしまったのを認めつつも、いかんせんそう受け取るほかなかったのだから仕方ない。
     おそらくあの人は、いや間違いなく中年棋士に抱かれている、と。綺麗な黒髪をした静かな印象の女性が声を押し殺し、髪を振り乱して無頼派棋士の背中に手をひしと絡めている姿が、否応[イヤオウ]なしに自動的に頭の中に浮かんできたのである。そう、確かに単なる妄想でしかなかろうと……全く振り払うことの困難な随分強固なものとして。



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    テーマ : エッセイ
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    夢見【5】私の家は盛り土の上に不安定に拵えられ~2(了)





    (696字)
        所々が破れた障子から部屋の中が覗けた。障子は立て付けが悪いのか少し斜めに傾き、五十センチほど開かれている。……以前に住んでいた人間がこの家を去った時から誰も手を付けていないのではないかと想像する。
     家の外周をゆっくり見て廻ったが、とても小さな家だ。平屋建てで大体六畳間が三部屋といったところか。再び障子の隙間から部屋を見ると、そこはどうやら寝室のようで家具は一切なく、方々が傷んでいるらしい井草の飛び出している箇所がやたら目につく畳だけが残されていた。畳の中央はいびつな形で凹み、周囲は特に傷みが激しかった。薄暗い部屋の中、畳が青白くかすかに光っているのが見える。
     母屋の玄関は横開きで表面の模様がわずかな凹凸になっている、半透明のガラス製の引き戸だった。鍵がしっかりかかっていないということに、私はまたしても少し気を揉む。

     家の中心にはかなり立派な太い大黒柱があり、その頂点から少し下の部分を梁が何本か通っていた。一本は柱に開けた穴にしっかり固定されていたが、残り数本は薄いくぼみを作って柱に対して強引に嵌め込んだり、さらにはその上にただ乗っけて軽く引っ掛けたりしているだけのものまであった。随分と適当に造ってあると思わせた。
     それが部屋の天井を支えているとは言っても、よく見ると梁は部屋の端のほうでは壁にまで達しておらず、遊んでいる部分がある。つまり、天井の端のほうは梁に支えられていない。
     家の骨組みの造りはかなり雑で、雨露をしのぐのがやっとという感じの印象を与える。多分、以前住んでいた人が一人でこの家を建てたんだろう。そうやって考えるとまあまあ立派なものなのかもしれないと思い直すことにした。




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    カテゴリ外【1】あがきもがく~1





    (20本    2001年12月14日から記す。以下日付のないものは同日)

    煙草をやめるということは煙草をやめるということでしかない  2001・12・14


    人生の大半のことは科学が解決してくれる


    煙草を何かの象徴だと思う奴は馬鹿だし、逆にそれよって禁煙する奴はどうしようもないし


    俺は煙草を喫ってマイナスからゼロになるだけ


    私は空き缶を潰そうとしたが無理だった。これが現実だった


    私は泣いた方が良いのだろうか?


    犯罪者にも現実はつきまとう


    誰かパトロンになってくれ  


    M・Oを読むたびに絶望する僕はどうしたらいいんだろ?


    地域エゴイズム、始まりはいつもそれしかないのだろうか


    世の中にはなんて覚える必要の無い言葉が多いのだろう  2001・12・15


    シャンプーが目に入り、痛い。淡い屈辱は軽い倦怠へ、もう俺は昔の俺じゃない  2002・2・25


    猫に餌をやった。その手を洗った。すまん


    楽器を弾けない人間の一生


    私に出来ることといえば、街中で弾き語りをしている男に対して漏らした嘲笑を、一刻も早く忘れることだ  


    風呂に入る。湯気が立ち上る。私はこの瞬間……  


    漫画を読んで、泣いて、どこが悪い?  


    旅が飽きたというニヒリストが一人、「なんでだ?」
    なんでもだ


    煙草に害は無い。害があるのは煙草の中身


    僕はしょっちゅううろたえる。ほとんど驚かない


    音楽家と僕の邂逅は絶対にない  



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    テーマ : 物書きのひとりごと
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    日記1998【3】目覚めと悲劇(了)





    (1047字    1998年10月記す    2013年06月補筆修正)
        TV番組で紹介されたアメリカの訴訟例でこんな興味深いものがあった。ある老女が道を歩いていたところ、教会からの落下物(これがなにか憶えていないのだが、おそらく頭蓋骨が陥没するレベルの物ではないのだろう。番組内で老女はインタビューに対してまともに答えられる状態だった)によって頭に軽い怪我をしたというのだ。これは確かに危険であるし、怪我の程度が多少ひどければ訴えられる可能性は十分にある。
     実際は小さい傷だったみたいだがその老女側の訴訟文によると、頭に受けたショックによって異性に再び性的興奮を覚える体質になってしまい、いつの間にか気づかないうちにオーガズムを迎える体になってしまったという。なんとも他人には想像し難い悲劇に見舞われることとなった。
     忘れ去られてもいた感覚が蘇り、半ば自動的なつきまといが不快さや生活の不自由さをもたらし、そうなってしまった自らの現状は非常に羞恥を感じるところであるとして、多額の損害賠償を請求する運びとなった。金額は正確には忘れたが、多分日本円で億相当の請求だったと思う。
     道を歩いているだけでも勝手にしかも非常に唐突に、「かなり些細なきっかけでオーガズムを迎えてしまう状態」をどうにも想像しづらいことは確かながらも、敢えてその感覚を私自身に当てはめ考えてみると、確かに異性との接触を避けるために外出を躊躇うかもしれない。
     TVによると教会側は老女の言いがかりだとの主張で真っ向から対立しているらしく、ただ実際にどうだったのかこの先の展開は知らない。日本のバラエティー番組で紹介された、報道というかこの海外版ワイドショウは、然々の訴訟があったまでしか伝えていないので以降の展開や判決について、大きな事件というわけではないこともあり日本から知るのは難しい。

     怪我をしたことは気の毒であるし被害の程度によってそれは償われなければならないが、しかし老女が頭に受けたショックによって再び性欲を異性に感じるようになり、しかも全く不随意的、およそ強制的にオーガズムを迎えさせられてしまうとはどういったメカニズムによるものか。
     正直私が考えても明確な答えは出ない。ひょっとしたら本当に、脳を揺さぶられた時に発生した異常な電気信号が、性的な興奮やそれを経た末の絶頂を引き起こす類の命令を伝える回路を、誤った形で復元、または再形成したのかもしれない。そんなことが教会からの落下物による事故によって、慎み深い生活を送る老女に実際に引き起こされたのだとすれば、なんとも悲劇的な話だと言えないだろうか。
     



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    テーマ : エッセイ
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    案内・告知【10】更新報告他

    エッセイ【3】NHK教育と無頼派~1
    投稿しました。二回で終わりです

    プロフィール画像を貼り付けた際にブログ開設当初に書いた紹介文が文字化けをしたため、ブログ村からコピーして持ってきました。内容は更新日数を1日増やした
    以外は特に変わってません。旅行記はもう少ししたら投稿します

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    エッセイ(雑記)【3】NHK教育と無頼派~1





    (815字/1998年10月に記す/2012年06月補筆修正)
        特に休日の予定もなかった私はたまたまその時間まで惰眠を貪り、目を覚ましたと同時に寝床の近くに転がっていたリモコンを手さぐりで探し当てることをした。ついでに電源ボタンを押したのちしばらくしてから枕に片肘をつき、日曜の朝の退屈なTVを視聴するかなどと思っていたのだ。
     チャンネルを回した時にほんの瞬間将棋の番組が目に止まり、一人の男――棋士の顔がアップに、続いてズームが引かれるやいなや咥え煙草をしたのである。私は唐突に目にしたその光景が、初めて目にした日曜の朝の健康的な囲碁将棋番組(視聴者もそれなりに健全な暇人であるはず)にはなんともふさわしくないものだなと、可笑しくも感じてしまったのだ。
     もう一方の対局相手も同年代らしい男で、咥え煙草の男が考え込みだしたら途端に正座から――人目を気にしてみせ多少周囲を窺いながらも――、出来るかぎり小さな動きを心掛けつつといった様子で足を組み替え、あぐらにもっていく按配[アンバイ]だ。どうにも調子が掴みづらく、見ているこちら側も恐々とであっても、次に何をするのだろうかとを期待している部分もあることはある。

     私は初めて観たNHK教育の昼前の番組に対し、随分とざっくばらんに進行しているなあと相変わらず無責任な面白がりのうちにいたところ、ふとその奥、テレビ視聴者側からしてもやはり奥に位置する場所に、若く美しい女性がいることに気がついた。
     正確な名称は分からないが、対局者が一手打つ毎に残り時間を告げる係の二十二、三歳くらい人は静かに座り、果たしてよく見ると顔全体は小さく均整が取れ、顎はすっきりと頬は柔らかな血色[ケッショク]を湛えている。目は比較的切れ長なつくりだったが明るめの化粧のためか、年齢に相応しい愛嬌を見せるものだった。
     品の良さは感じさせるも、それと同時に現代風の若者にも通じる気兼ねなさもある。あくまでも私の偏見として言わせて貰うと、そのように綺麗な人が将棋の世界にいるとは思っていなかったのだ。




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    夢見【5】私の家は盛り土の上に不安定に拵えられ~1





    (848字)
        私の家は盛り土の上に不安定に拵えられた家だった。周囲は暗闇で一連の建物以外何も見えない。家の隣には内部に洋式トイレが二つだけぽつんと並んで設置された、コンクリート打ちっぱなしのトイレ専用棟が直方体にそびえている。
     高さは3.5~4メートルくらい。一見して出来の悪い前衛建築っぽくもあって、隣の和風の母屋とはまったく趣が異なる。不釣り合いというか気味が悪いくらいに違和感があると一瞬感じながらも、しかしそんなことよりも住むとなったからには実際上の問題のほうが気になった。一旦外に出なければトイレが使えないのではないかと、私はそのことが不便だと考えるが、少ししてからトイレは不浄のものだから本来は居住スペースから離されていて、外側から見えない造りにしてあるのが正しいことなのかもしれないと思うようになっていた。
     母屋を見に行く前にトイレ専用塔の内部が具体的にどうなっているかを確認したいと、先にそちらに向かう。想像以上に汚なく、空気が淀んでいるのだった。扉を開けた瞬間に足元の近くを気味の悪い虫が一匹通り過ぎて行った。嫌な雰囲気以外何も感じない。
     そういえばトイレ専用棟の入り口の鍵が閉まっていなかったと気づく。無用心だなと、公衆便所で一般的に使われる鍵に似た形状であることを確認してから閉めるが、親はこれからもどうせ閉めないだろうに私だけが気苦労をしているように思う。

     母屋のほうは以前住んでいた家と違い、築年数は一世紀近いとも見える純和風のはっきりいえばほとんど廃屋だった。その家は近くにまで電気が引き入れられていないのが分かった。電柱などはどこにもなく、当然暗闇の中に視線を泳がせても電線は一向に見当たらないのだ。
     いつの間にか上空からの月の光が家の周囲を照らし、空は見上げずにいても家の中が微かにぼんやりと浮かんで見える様子からして、三日月から半月程度の明るさだろうと察する。それでも相変わらず薄暗く、家屋から十数メートル離れた先になると全く先を見渡すことが出来ないほどの分厚い闇に塗り固められている。




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    日記1998【2】雀龍会会員メモ~3(了)





    (1091字)
    総評
    【N上】 やはり全体的に優っているし、上手さは誰もが認めるところだ。私の当面の課題は、ツイてきた彼を止めていかにして潰すか
    彼の読みは的確なだけではなく、流れを掴みそれがどの程度であるか理解することに長けている。つまり、狙える時と狙えない時の見極めが上手い
    彼の場合はW森ほど極端に堅いわけではないので、たまに見え見えの手にも勝負とあらば危険牌を突っ込みもする
    付け入るところと言えるかは分からないが、彼は勝負の楽しさを優先しているのか、もちろんやるからには勝つつもりでいるとは言っても、私のようにひたすらとにかく勝ちにこだわるタイプとは、ギリギリの局面に接する打ち方などの姿勢からしてかなり違う。その勝負に対しての甘さ(友人麻雀だからかもしれないが)を突くしかない

    【W森】 彼とやると大体勝ち負けの点差が開かない。こちらが二位で三万二千点に対して、三位の彼は二万三千点くらいとか。一位と四位の差は大きい時も小さい時もある
    リーチ後か二鳴き以上の聴牌[テンパイ]状態から、彼の直接の振り込みは望まないほうがいいと断言出来るくらい、とにかく堅い
    降りる時はかなり早い段階で徹底的に降りる。そうなったらこちらは他家[タケ,ターチャ]を標的にしたほうがいい。彼の点数を凹ませたいなどと狙い定めていると、手数を無駄にするだけどころか和了る機会さえ失いかねないのだ
    彼は大勝ちにはこだわらないので、あまり大きな手を作る場面には出くわさない。東場[トンバ]のあいだに一万五千点程度に凹むと南場[ナンバ]は原点付近をウロウロといった感じになることが多い

    【K尾】 最近は少しカモから遠ざかって行ったが、やはり彼からの振り込みは常に期待出来る。ただ、彼はたまにでかい手を和了るので、1・2回和了って調子が出てきたらすぐにツモでも、特にロンのほうが言うまでもなくいいが動きを抑える早和了りに専念する
    役満や派手な手役などを特に好む傾向にあり、牌の巡りが良く上手く合致した時には、四暗刻[スーアンコ]崩れのマンガンや鳴き清一色[チンイツ,チンイーソー]などに和了られる危険性がある
    彼の良い流れは半荘[ハンチャン]のあいだにせいぜい2回あるかないか、それを凌げばやはりこのメンバーでは最弱であることは間違いない

    【A谷】 K尾と大体似ているが、感情の起伏が激しいため逆手に取ることが出来れば有利に進められるかもしれない。心理的な追い詰めによってイケイケの持つ計算外の行動から来る与し難さが抑えられ、結果平凡なセオリー打ちに徹してくれるならば、もはや敵ではないとすら言える。何故なら、彼のセオリー理解はまだまだ未熟だからだ            
     



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    エッセイ(物語構成)【2】パラソル・パラダイム~6(了)





    (1167字)
        一瞬の邂逅と敢えて言うが、最初の頃に羞恥と戸惑いだけに囚われていた心は、もっと彼女を楽しませるために何かが出来ないか、もう少しだけでも喜んでくれる行動、反応、仕草、表情は何だろうかと、僕なりの精一杯の返事をしたいという想いに変わっていたはずだった。どれほどに不器用な振る舞いであったにせよ彼女がその表情をふと明るくする、せめてそんな一言も口の端から溢れはしなかった。
     突然に起こったことであったとしても、何よりもある瞬間以降からは積極的にこの状況を望んで受け入れているんだ、無言の声が上手く伝わればいいと、僕は祈りにも似た感情を抱いて。
     こちらがほとんどの言葉も動きも失ったまま数分が過ぎた頃だったか、見た目には未だに曖昧な笑みを浮かべながら佇んでいるだけの男子生徒の横を、彼女は小走りで通り抜けて行った。

     その子のことが好きだった僕に対して掛けられた情けだったのかもしれないと感じて、それでも冴えない男に向けられた優しさだったのでは、と。仲の良い友人(親友だと思っていた)も同じ子が好きだということを口にしていた。他にも想いを密かに持っているらしき奴は周囲に何人もいて、どう考えても自分は一番つまらない何の取り柄もない男だと知っていたのだ。
     当然自分は相手にとってふさわしいような人間ではない。ただ、束の間ではあっても二人だけの時間を彼女は与えてくれた。僕の感情を知っていてもぬくもりを灯した柔らかな手を差し出し応えることは出来ず、果たして試みとしては不器用なものであったとしても、誰もいない廊下で無邪気な姿と笑顔を見せてくれたのかもしれないのだ。
     勉強の成績が優秀なだけではなく、誰にでも別け隔てなく屈託のない笑顔をもって接していた。生命の開かれた若芽に薫る軽やかな風は周囲に自然と人を惹き寄せ、密やかに背筋の伸ばされた芯の強さは、それでも時折見せる思春期の不安の姿と同居していたけれど……。
     学年の中心的な存在でありアイドルでもあり、そして、誰よりも可愛かった。少なくない男子が彼女に憧れ、自分の気持をうまく言葉に出来ない中学生なりに恋焦がれた。頭がかなり良いことは知ってはいたが、中学の卒業後、学区内では最高偏差値の高校に進学したのだという。のちに親友から教えて貰い、まるで自分のことのように嬉しさと誇らしさを勝手に感じていた。
     元々普段から全く勉強もせず、受験対策もろくにしていなかった僕は公立高校の受験には失敗して、仕方なく滑り止めの真ん中よりやや劣る私立高に行くことになったのだった。
     
     多くの言葉を重ねるのは止そう。過ぎ去った出来事は僕にとっては現実であっても、同様に確かな形を持ったものではない。色彩溢れ、踊るままの装われたその姿、儚くも華やかに揺らめくあの時、それすらも留められた白い紙の上では心の形に寄り添う影でしかないのだから。




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    夢見【4】TVの向こう側(了)





    (1269字)
     何かのニュースが一連の流れに沿って伝えられた。そらで原稿を読み上げている女性アナウンサーKが目の前のテーブルに一瞬視線を落とし、再び正面を向く。VTRが始まり現場の様子が映される。予定通りの場面がカメラに収まり決められた手順で必要な内容が伝えられたということは、視聴者にはいつもの流れと同じといった感じで、しっかり違和感なく受け止められていた。
     観ている側は、予定されていた映像が終われば彼女が次のテーマに移るために別の原稿を読み始めるのかと思っていたが、そんな素振りは一切なかった。

     VTRが終わりスタジオからの映像に切り替わると、アナウンサーのKは正面のカメラを見据えながら、一言二言と口許から何か言葉が発していることが分かる。それは、こちらが聞き取れないくらいの小声で何かを伝えようとしているようだった。視聴者はみな拍子抜けした感じを受け、続いて少しだけ不安な気分になっていた。
     音声が正常な状態になると、まるでNHK解説委員にでもなったつもりでいるのか、ニュースについての個人的な見解を述べているような彼女の姿が。アナウンサーなのにこんなことを言って大丈夫なんだろうかと、ちょっとしたハプニング映像を見て得した気分に私はなる。

     コメントを正面のカメラに向かって喋り続けるKの周りに、三人の男女が現れる。黒いTシャツやトレーナーに下はGパン。腰のベルトには複数の小物入れがぶら下がっている。私はあれがADなのだろうということを理解する。民放の特にお笑い番組でADがいじられ半分に画面に映る場合、大体ああいった格好をしていたのを思い出したからだ。
     三人は全員が立った状態でアナウンサーの周りを取り囲み、各々が髪の毛や化粧をチェックしたり、服装を整えつつほこりなどを払っていた。一連の作業の様子がずっと画面に映りこんでいた。まるで出演寸前の待機中タレントの風景を映したみたいだと思ったが、服装を手直ししているスタッフはカメラに映っている自分の姿には関心がないのか、全く気に留めていないように見える。
     画面に映ることがあらかじめ想定されている場合は黒子の格好になるはずではなかったか?    彼らの様子を見ていると自分の姿がカメラには映らないことを確信しているのだろうかと、そんな考えすら頭の中に浮かぶのだった。

     どうやら自分たちスタッフがアナウンサーの姿を隠そうとも、放送時は顔を半分以上はカメラに見せる、といった内部のルールさえ守っていれば良いらしい。
     俯いた表情は目を閉じているように、それでも長い睫毛が時々動きを見せる様子には沈黙を誘おうとしているとも、あるいはいくらか妖艶な雰囲気すらある。まばたきをしていることがこちらにも微かに理解出来た。

     現在読み上げている先ほどのニュースについての原稿は、口調は普段のニュースを読むときと全く同じ調子と言えるかもしれない。抑揚の押さえられ落ち着いた感じはアナウンサーに求められる平均的な話し方だったが、その内容をよく聞いてみるとやはり解説委員よろしくなかなか的を射た発言をしているなと、私は少し感心したのだった。




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