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    日記2004【2】貧すれば鈍すれば貧す(了)





    (1220字/2004年2月14日に記す/2013年10月補筆修正)
     Hello!! 昨日は日記をつけませんでした。だからどうしたわけではありませんが、多少の後悔とそれより少ないながらも罪悪感があります。
     現在は2月14日の午前二時と、少しばかり時間は過ぎたといっても昨朝から連続して起きているわけですから、一応は2月13日の日記ということにしておきます。

     犬の散歩ビジネスについてはどうなることやら分かりません。
     ポスターが出来たとて私のように無気力で活動力のない男に何が出来るのか、新しく始めるつもりの起業内容について話している最中にも、緩慢に訪れる、しかし後ろに引きようにも決して下がれなくなる一線を越える瞬間が、ひたひたと差し迫ってくるのを感じてはいます。
     ホームレスについての話というものは興味深く、しかも私と友人R立は、忌避・嫌悪または透明化さえしている同世代の人間よりも、ホームレスについての――もちろんある程度の留保と、彼らへの独善的な理解を避けなければとした危惧の感を忘れずにいつつも――一応の視線を持っているでしょう。
     これは実に重要なことで、自身がホームレスになる可能性について云々しようと実際に「なる」のは先の話ではあるだろうし、どちらにしろ考えてみたところでも頑是無いのでしょうが、それにしても自分たちの現状(見せ掛けだけの学生、職業を探すつもりはあるとしても、どうも切迫感もなければ大体希望自体が存在していると自分自身を騙しきれる自信もない)を鑑みると、当然未経験でありながらやはり同世代の人間よりは現実的直感に落とし込め、より将来に起こりえる地続きの感覚で受け止めることが出来るのではないかというわけです。
     ホームレスとはどのような状況、どのような心理であるのか、私ならば何を思うのか? とはいえ特に自らに引きつけてみたところで想像の域を出ず、やはりはっきりとは分からないのですね。確かに良しとはしないともちろん現在は考えているのですが、ひょっとしたらいざそのときになってみると『まあしょうがないな、これならこれでやっていくしかない。ああ、まずは差し当たりどうしようか』みたいに案外簡単に至るのではないかと。

     あるいはそういった状況が訪れるならば已む無しとして、多少なりとも肯定しているかもしれません。実際問題、際[キワ]とも呼べる状態になれば選択の余地があることは稀かもしれませんが。
     ほとんど意識下レベルにおいては現在の生活や立場(?)という一応の安定を打ち捨てることに対し、さほど自身の臆する姿を想像出来ず理由も見当たらない、つまり執着していないのではないかと思ってしまうのですね。
     これは一体全体どういうわけなのか。今更になってよく掴みきれていないのです。

     受け入れざるを得ない困惑する現状、受け入れ難さに繰り返される表明の戸惑い、今を嘆き届かぬ過去へ悔恨混じりに手を伸ばし、伏し目がちにあるいは定まらぬ中に渇望ばかりが生ぬるい熱を帯びた視線を送る――か。
     まあ、良しとしましょう。とりあえず明日へ、明日へと繋がる今日の最後の刻であるよう。




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    夢見【12】試験までに駆け抜けろ~1    修正版 





     
    (1240字)
         かつて卒業したとある学校で授業を受けている。今度近いうちにでも試験があるだろうと、室内のどこからか漏れ聞こえる軽い雑談の感じで伝わってきた。でありながら、しばらく聴いているとその話され方に反して内容は確定しているのだと分かった。放送大学の某アナウンサーに似たクラスメイトと先生が顔を近づけ、何か真剣に話し込んでいるのだった。すぐ近くに座りながら私は背中越しに聴いている。
     てっきり授業中だと思っていたところ、そこはあの学校の教室というよりもどちらかというと、どこの学生食堂にもありがちな雑駁なくつろいだ感情が交差する雰囲気で、周囲の人間はそれぞれが長テーブルに向い合って気楽に会話を楽しんでいるのだった。    
            
     試験当日、私が遅れて廊下隅の教室に入るとそこは十畳くらいの狭い場所で、妙にも長机は人がすれ違うことが難しいくらいの間隔に、部屋の大きさに不釣り合いな数が置かれていた。
     長机一つにつき三人が座る予定らしい。いくらなんでも、これじゃ隣の人間の腕やら足やらが邪魔になるんじゃないかと考えたりもしたが、とりあえずそんな心配をするよりも適当に座って自分の席を確保しようと周囲を見渡した。
     教室の壁からだいぶ出っ張った太い柱を挟む形に机が前後に置かれ、私は前列二番目にある机の一番右奥を自分の場所とした。柱のせいでスペースが限られ席についてみると身体が窮屈になってしまうも、しかしなんとなく居心地がいい。
     荷物を足元に置いてふと机の上を見ると、右斜め前に煙草の箱くらいの大きさをした紫色の厚紙が水色のビニールテープで貼られていた。各机に三枚ずつ、一人につき一枚が用意されているようだった。随分と大袈裟なことをすると少し怪訝に感じる。これじゃまるで大学受験みたいだな、と。

     先ほど目にした某アナウンサーに似ている女性を見つけ先生と何を話していたかと聞くと、「何も話していない」という。
     話したくないなら別にいいと私はあっさりと引き下がることにするが、やがて話が終わる直前に人違いであると気づく。本当に先生と話していたのはかつての職場によく買い物にきていた、三十過ぎくらいのちょっとハスッパな感じもするが可愛くも色っぽくもある主婦だった。

     教室で試験が始まるのを待ち数分後、知らない人間が私の座っている机の近くに荷物を下ろし諸々の準備を始めた。その様子を見て自分が間違えたのか、一旦席を立ったほうがいいかもしれないと早速棒立ちになっているこちらの姿を、男はおかしなものでも見るような目で窺う。
     番号によって部屋が決まっているみたいで、高校時代の同級生E原学級委員長に似た男は、私に近付いてくるなり大学や資格試験の受験票の作りに似た紫色の紙を見せてくるのだった。
     どうやらそれらは一対になっていて、各自学生が持っている紙の方には12桁の番号が書かれ、同じ数字が印刷されている紙の貼られている机が指定位置ということだとか。ちなみに近くには、同じく高校の同級生のO長に似た男もいた気がする。
     私は学級委員長に似た男にそんなもんは知らないし話を聞いていないと弁明をするが、入学した時に貰った紙袋の中に入っているという。いまさら家へ取りに戻るなど無理だ。とりあえず先生に相談すればなんとかなるかもしれないと教室を出る。




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    タイ旅行、後日まとめ記【6月27日】~3     修正版





    (1103字)
     朝6時頃には完全に目を覚ましてからは、すぐに寝台をしまいこむ作業に取り掛かったのでした。昨日からシャワーも碌に浴びていないこの身体であり、しかもその汗を吸って限りなく臭くなっているシャツを着ていることで、最悪の心身の状態なのです。
     すぐにでも宿を見つけシャワーの滝に打たれたい。ハジャイでは駅からすでに乗り合いタクシーの乗客争奪戦が繰り広げられ、全く疲れている身体を休息させる暇も与えられないくらいに、次々と手配師(?)が近寄って交渉してくるのでした。
     そういった諸々の面倒な輩を無視してさっさと通り抜けてしまおうと、いつもと同様に日本人の最大の武器であるあいまいな薄ら笑いを浮かべつつの、さすがに旅を始めてから要所々々で使ってきたスルー技術ですので、多少手馴れてきた感もあるのですね。

     街は私の予想以上に栄えていて、特にデパートや電化製品の類の商品が売られている露店も多かったのです。
     駅を離れ少し歩いていると「LIDO」というホテルを見つけ、そこに一泊させてもらおうということにしました。中華系の人が経営している「旅社」と呼ばれる宿泊施設で、雑居ビルをホテルに改装した感じでしょうか。
     二階の廊下では漆喰の壁の一部分が長方形に切り取られていて、それが明かり取りの窓がわりになり、少し高い位置から気持ちの良い光が入ってくるのです。一方若干古びたビルの造りと、出入口のほぼ正面にあるカウンターから上に続く広めのゆったりした螺旋階段周辺は、始終ほとんど日の入らない薄暗さが却って心地良く、個室は中国の地方都市あたりの民家を彷彿とさせるような一室といったところでした。
     チェックインの後、我々は溜まっていた洗濯物を一気に洗い出すことにしました。
     荷物の中には大袈裟ではなくすでに腐臭が漂う物すらあり、短くも充実した生涯を全うされたシャツが数枚。とりあえず天気が実に良かったものですから、干した下着は当日のうちに全て乾いたのでした。
     しかし我々もそれが乾くまで待っているほど心の広い人間ではありませんで、彼の提案でウォークマンを買いに行くことになったのですね。近くの露天に売っているのを見たとか、ほいほいと話を信じてついて行きました。話によるとすぐ近くみたいだとのことで。

     どのくらい歩いたか忘れましたが、大して時間は経っていないのだと思います。露天が見つかりしっかりとウォークマンもあるらしく、互いに色々と物色を始めました。
     店に置いてある商品はまあまあ綺麗ではあるといっても、それでも細かい傷があるのもしばしばです。
     どういった経路で屋台のワゴンに乱雑に置かれているのか、おそらく誰かから買い取られた中古品だったのでしょうか。まずは安いウォークマン(?)を、ついでに現地のアイドルの歌が収録された歌のカセットも2本購入しました。




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    日記2004【1】日記を始めるにあたって(了)
    投稿しました

    元々の日記へ書かれた日付順通りで発表していこうと考えております。ですが、最終的な推敲が済んだ日時はそれぞれによって異なるため、必ずしも古い日付のものが先に仕上がっていたというわけではありません。そこのところはあらかじめご理解下さい

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    日記2004【1】日記を始めるにあたって(了)





    (872字/2004年2月12日に記す/2013年10月補筆修正)
     日記を書いておく習慣は私にとって少々難儀なものかもしれない。今までに日記を書こうと試みたことはなく、おそらく続くはずがないと思っていたからだが、それにしても日記の本来的な役割、意義とは一体どのようなものであるのか?
     そんなことを多少なりとも考えると、どうしても元々の不精な性格が災いして、結局は筆を執るという行為を縁遠くさせていた。
     数年後、私は再び日々の記録を紙に記すべく行為をやめているのではないか。ただなにかの折にふとこのノートを見つけ、手に取るとき――中を見る勇気があるならば――過去の自分自身との束の間の邂逅を、やはり得ることになるだろう。
     果たして私にとってどんな意味があるか、言うまでもなく現在からは知りようもない。しかしどういった形で示されていようとも、やはり不動の存在と感じるのが時間というものだ。
         それだけはこの目の前で姿を現すことになる。例えば悲しみ、怒り憤懣、憂鬱もちろん喜び、のちに恥じらいを以って迎える涙もその一つ一つが、あるいは混ぜ合わされた感情の四季がさらに多様な姿をして迫る。

     そのとき私はうろたえずに目を背けずに、平然とした態度で少なくとも過去に対して胸を張るとまでは行かなくとも、ノートに目を写した瞬間から脳髄がそこに書かれている言葉を理解した上で、過ぎ去った時間への苛烈なまでの囚われを避けていられるか?
     正直に言ってあまり自信は無い。ただ同時に、いささか性急にひとり合点をした思い煩い自体無意味なのではないか、そういう風に向き合う姿勢も悪くないと最近は多少開き直ってもいるのだ。
     過去を全て美化することこそ、過去への冒涜であり、汚辱的行為である。事実を事実として捉えない行為は醜悪であるといえるだろう。しかし、現実を「これが俺の現実だ」といって悲観したり、自虐的になるのも一種のナルシズムである。
         願わくば私に過去なるものが存在していることを当然に認め、それを斟酌無しに見定める力、ないしは根気を持って受け止める人生の経験が自身にいずれ身につくよう、現在はとりあえずの希望を持ちながらも祈りと勤勉を未来の自分に捧げたい。




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    夢見【11】流石の中西節(了)





    (970字)
     クイズ番組が始まる。名司会者中西ハクライのいつもの軽妙な挨拶が朗々と響く「地球より若い女子高生の皆さんこんにちわ、地球より年寄りの女子大生の皆さんこんばんわ」
     すぐに訂正が入る。「ほんとにごめんなさいね。でも、皆さん地球より長生きしてください」と訳の分からない謝罪。
     出演者はタレントやスポーツ選手、文化人の面々、それらがランダムで二人一組に分けられ一チームになる、まあよくあるシステムだ。チーム名は名前を組み合わせたものとなる。例えば、山田太郎と太田竹子なら山田竹子――Michael毘沙門やら大倉576といった具合で、誰と誰がくっついたのか私にはよく分からない。
     某局オールスター大感謝祭みたいに階段状に座席が配されており、ずらっと上にまで様々な人が並んでいる。一番右の一列だけは一般視聴者からの参加のようで一人ずつでクイズに応えるのだとか。他の出演者と違い名前を書いたボードは、目の前に置いていなかった。どうやら個人情報保護が理由なのだ。

     今回は妖怪も回答者として参戦しているということが、どこからともなく私に伝わってくる。見た感じでは一般参加にそれらしいのはいないので、TV局が特別ゲストととして呼んだのではないかと検討をつけて画面を見回す。
     階段状になったステージで言うと大体中段くらいか、前後左右からの座席順でちょうど真ん中あたりに、異様なほどに背が高く横幅の広い身体をしている、警備員の服を着た中年男が座っている。立っていたとしても2m50Cmもの巨体だ。しかし全員座っているはずだから、実際の身長は4m以上?
     何故か相方は大型バスだった。どうやって座っているのか分からない……いやいや、そうではなくてどうやってそこに収まっているのか、そもそも相方のバスは生命体なのだろうか?
     チーム名を見るとまた随分と長い奇妙なものだった。『地の例の例の例の猫の例の~が見つかりました』
     私は四番目は「例」ではなくて、「霊」に書き直さないと間違っていることに気がついた。TV局のスタッフってのは本当に適当だよなと、少し辟易とする。内部の人間は誰一人知らないし気がつかないのか、というか本人(妖怪)に聞いて確認をちゃんとしていないってことだとしたら、視聴者が間違いを見つけての指摘も出来ないほど無知無能だと思い込んでいるんだろう。まったく、だからTVってやつは……。




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    タイ旅行、後日まとめ記【6月27日】~2





    (1130字)
     私たちが乗る列車は寝台車でして、しかし寝台のある個室を見ても壁側にしかベッドらしきものが見当たりません。
     これで人数分があるのだろうかと不安になりながらも、個室を後にして自分の席を今度は探すことになり、これは結構あっさりと見つけました。早速座ってみると、座席が多少固いところまでは想像の限りなのですが、妙に上が狭いのですね。圧迫感があり普通に座ってはいられても、なんとなく頭の上に迫る棚の感覚が気になってしまう席の高さなのです。
     ところで私の前の席は彼ではなくタイ人(多分)の青年だったので、列車に乗り自分の寝台を発見したことや、席が無事確保出来たなどの昂揚とした気分が少しくじかれてしまい、いくらか気まずい気分にもなりました。言ってみれば17時間ものあいだ言葉の通じない人と席を向かい合わせにするなど、前言を撤回しますと、本音を言えば「少し」ではなく「凄く」なのであります。

     列車は走り出し快調に風を切る。タイの湿気を混じった熱風を窓辺で受けて取り、バンコクを離れやっと前回の旅との決別、あるいは進歩を見ることが出来たなと感じました。半分目を閉じ市街地の雑踏から遠ざかっていく私の体が、まるで「新しい私」になった気がして、すがすがしさのようなものすら――。

     前に座った青年からもらったビールはなんとなく飲みづらく、結局三口くらいしか口をつけませんでした。タイ人の彼には申し訳なくも、ビールは駅で浴びるほど飲んだし、目の前で開けられたと思うのですがどうしても気になってしまい進んで口にする気にはならなかったのです。
     今回の旅について彼と日本で打ち合わせを何回かしていましたが、そのときに教科書となったのは『地球の歩き方』です。小さな注意メモとして紙面に載っていたと記憶していまして、確かアルコールなどに睡眠薬を混入し、相手が眠っている隙に盗みを働く人がいるといった物騒な内容が書かれていました。
     私は安全指南を思い出し忠実にそれを守っていたわけです。一方で彼は教科書の教え(?)を忘れてしまったのか、全く気にせずに上機嫌でタイ人の青年と乾杯などをして盛り上がっているという有り様。
     十数時間後に電車から降りた私は彼に失礼をしてしまったなと反省し、相方はこちらのことをあまりにも神経質過ぎると笑っていました。

     夜になってやっとベッドにもぐりこもうとしていたとき(私は寝台車の下段でした)、突然上の男が降りてきたらばそのまま別の車両に行ってしまい、すぐ後には車掌が来ましたが何の説明も無しに、ほとんど強引にこちらを上の段に移動させたのです。
     以降は特に変わったことも無く、上下二段の寝台が縦に並んで壁に張り付いているわけですが、自分の寝床から見て斜め下に寝ていた女性の脚が気になったくらいでしょう。




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    夢見【10】アンファンテリブル(了)






    (2000字)
     とある親子が会話をしている。子供にお遣いを頼むという場面。どこかに買い物に行くようだが、その中身を再度確認しているのだ。

    「サーティーワンアイスクリームに行って、さっき教えたものを買ってくるのよ」「わかってるよ、ママ」
    「あのね、アイスが溶けないように、冷たい塊を一緒にもらってくるんだよ」「うん、さっききいたやつでしょ。氷じゃないやつね」
    「そうよ、ド・ラ・イ・アイスって言うの」
    「ドライアイスでしょ、ぼく知ってるからさ。もういってくるね」
    「それじゃあお願いね、帰ってきたら一緒に食べましょうね。ママはお洗濯をしないといけないからね」
    「うん、それじゃいってきます」
    「車に気をつけてね」

     三十手前といったところで背は高くなく、痩せ型である。控えめに癖付いた化粧のせいもあり、人目を引く華美さは感じさせない。にしても、年齢不相応というほどでないちょうど落ち着いた物腰と穏やかな表情のなかに、若い母親の誰もが持つことを望む、強さと慈愛を兼ね備えた母性の準備が整えられつつあるところをかいま見せる。
     息子は八歳、もう親の後をどこまでもついて回ったり言うことを黙って聞いていただけの頃とは違う。これからは小学校でも中学年生として、自分の主張や感情が相手に伝わるようにしっかりと説明する態度が求められる。出来ることからでも家のことや親の手伝いなどへと積極的な関わらせが、情操面でも教育に良い影響を与えるだろう。

     そういったわけで、今回はとりあえずお遣いを頼もうと母親は考えたのだった。それも子供の好きなアイスクリームだったら、喜んで行ってくれるのではないか。店員に注文を伝えてお金を渡し、自分が言ったものとちゃんと同じか確認し正しいお釣りを受け取る。店から帰ってくるときもアイスクリームを早く食べたい気持ちを抑え慎重に焦らず、容れ物をあまり揺らさないようにしながら周囲の車や人にも気を配らなければいけない。
     ちゃんと教えた通りの物を買ってきてお釣りも正しく、それでいて時間が掛かり過ぎて中身が溶けてしまったり形が崩れたりしていなければ満点だ。三番目の項目についてはドライアイスがあるから心配しなくてもいいだろう。

         無事に帰ってきたら沢山褒めてあげて、好きなアイスクリームを沢山食べさせてあげよう。私も子供にしっかりと感謝の気持を伝え、美味しく戴きたい。母親は息子がいま何をしているだろうかと想像し、思わず笑みがこぼれた。
     もちろんどこかで失敗してもちゃんと出来たところを評価してあげて、どこが間違えたか一緒に考えて次の自信につなげてあげればいい。

    「ただいま~」
    「おかえりなさい。ちゃんと出来た?」
    「うん、もちろんだよ」
    「そうね、どうもありがとう」
    「はいママ、中をあけてみて」
    「ふふ、すごく楽しみね」
    「うんっ、早く食べたいよ」


    「あ……あれっ、これって、あの、ドライアイスじゃ、ないの……かな」
    「うん、その、ドライ……なんとかってのがわからなくて、でもアイスがとけちゃうから、それでコンビニで」
    「……氷を買ってきて入れたの?」
    「うん、ごめんなさい。ぼく、ママの言ったことをわすれちゃって」

     軽く息をつくがそれは落胆のため息というよりも、緊張の糸が緩んでふっと漏れたためのそれだった。ううん、いいのよ。ママも上手く言えなかったから分からなくなっちゃったのね。

    「ごめんなさい、ママ」
    「そんなことないわ。たくさんのことが上手く出来たのよ。さあ、アイスを食べましょうね。あら、氷が入っていたから溶けないですんだのね」
    「うん、次はもっとちゃんとやるから」

     暗い部屋で女は中央の椅子にうつむき加減に座っている。頭上の弱い明かりに照らされている状態から、しずかにゆっくりと顔を上げるに従い光が徐々にその前面を映しだす。次第にその女があの母親であるということが分かる。
     肩は感情の葛藤に晒され震えていた。目には涙がたまり顔は若干青ざめ、唇を噛み締め嗚咽をこらえている姿に見える。

    「私、どうしたらいいんでしょう……」
     先の出来事は一件落着といった感じだったはずが、どうやら母親はあらぬところから相当の苦悩の種を抱えなければならなくなったように見受けられた。
    「本当に、自分の子供のことが、分からなくなってしまいました。なぜドライアイスを店の人に渡されたのに、それを捨てたのでしょうか。なぜわざわざコンビニで袋入りの氷を買ったでしょうか」
     息子は知っていてわざと間違えたことをした。それは子供なりの稚拙なものではあっても、親とのコミュニケーションを求めたために直後には打ち明けられるイタズラというわけでもなく、ごく自然と、本人から知らせてこず。母親を困らせるつもりの遊びだったのか、しかしそういった様子もなかったし普段は良好な親子関係のはずだった。
     人を騙すことに何の躊躇いもなく、平然と、息を吸って吐くように、地面を這う小さな虫の姿を確認した後に何の感情も持たずにそれを踏み潰すようにも、そこには彼の心躍るものさえないのに。彼は嘘をつくための人間なのかもしれない。
    「子育ての仕方を間違えたのでしょうか?」




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    タイ旅行、後日まとめ記【6月24日/6月27日】~1







    ※宿のベッドへ横になりながら、または小休止のベンチのちょっとした自由な時間につけたメモから起こしたものです。
    すぐ下記にあります宿の名前くらいはいくつかの歯抜けを除けば合っているはずですが、移動するたびに細かな地名を記述することはあまりしておりませんし、交通機関等々の情報(経路・時間・バス路線の番号等)に関しましても、当時として正しいかったのかどうかの自信はありません。ですが、15年前のことで色々と変わってしまっている部分もあるでしょうから、多少大目に見て頂ければ幸いです
    ここから有用な旅の情報を得ることはできませんで、あくまで無益な、精々暇潰しに興す目的の読み物として眺めていただくことが私の狙うところでございます


    ゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【2000年(以下略)6月23日】1日目
    グリーンハウス〈バンコク〉 【6月24日】2日目 
    列車乗車(バンコク→ハジャイ行き) 【6月25日】3日目
    リドホテル〈ハジャイ〉 【6月26日】4日目
    バス乗車(ハジャイ→クアラルンプールペナン島行き) 【6月27日】5日目
    ゲストハウス〈クアラルンプールペナン島〉 【6月27日】5日目
    スイスホテル〈クアラルンプール〉 【6月28日】6日目
    チャイナタウン旅社〈クアラルンプール〉 【6月29日】7日目
    マラッカゲストハウス〈クアラルンプール_マラッカ(インド人街)〉 【6月30日】8日目
    ゲストハウス〈クアラルンプール〉 【6月31日】9日目
    利民旅社〈クアラルンプール〉 【7月1日】10日目
    バス乗車(クアラルンプール→ハジャイ行き) 【7月2日】11日目
    ゲストハウス〈ハジャイ〉 【7月2日】11日目
    リドホテル〈ハジャイ〉 【7月3日】12日目
    列車乗車(ハジャイ→バンコク行き) 【7月4日】13日目
    HARNゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【7月5日】14日目
    列車乗車中(バンコク→チェンマイ行き) 【7月6日】15日目
    SKハウス〈チェンマイ〉 【7月7日】16日目
    山小屋〈チェンマイ_トレッキング中〉 【7月8日】17日目
    SKハウス〈チェンマイ〉 【7月9日】18日目
    列車乗車中(チェンマイ→バンコク行き) 【7月10日】19日目
    HARNゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【7月11日】20日目
    ステーションホテル〈バンコク_ファランポーン駅周辺〉 【7月12日】21日目
    ステーションホテル〈バンコク_ファランポーン駅周辺〉 相方と別れる 【7月13日】22日目
    ステーションホテル〈バンコク_ファランポーン駅周辺〉 【7月14日】23日目
    マルコポーロゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【7月15日】24日目
    マルコポーロゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【7月16日】25日目
    マルコポーロゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【7月17日】26日目
    マルコポーロゲストハウス〈バンコク_カオサン通り〉 【7月18日】27日目
    帰国 【7月19日】28日目

      
    【2000年(以下略)6月24日】に記したメモから(2498字)
     昨日バンコクに着きました。(6月23日午後7時着便?)彼とともに、ドンムアン空港からカオサン通りまで。交通手段は駅から高速バスでといった感じでして、旅の初っ端からいくらか散財をしてしまったのです。といっても前回のタクシー500B(タイバーツ=タイの通貨 当時は1B=3.5円くらいか)よりの進歩のほどが窺えるでしょうか。
     飛行機にしろ高速バスにしろ散々待たされていましたが、前に較べてみれば彼の文句や訳の分からない意見なども聞かされる面倒や被害(!)が少なく、いくぶんか楽であったのも事実であります。こんなことを書くと彼に何を言われるか分かったものではないですけど。

     最初に泊まった宿は、名前も憶えていませんが小奇麗なゲストハウスでした。設備は悪くはないのですが、シャワーに関しては不満が少々。こちらにしてみれば何をそんなにと思ってしまうくらいに、料金について彼は頭を悩ませているらしいのです。お金に関して(だけ)は本当に細かいことを気にするのですね。
     しかも気にして欲しい、もっと重要だと感じる事柄に関しては全くといっていいほど、考慮する素振りすら見せないのがまたなんとも――むしろそういったことを気にしている私を、些細な点でいちいち気に病む男だと小馬鹿にしたような態度すらとるのです。
        まあよし、とりあえず思いなおすことにしましょう。腹を立てるのはあまり建設的ではありません、自らのいささか過ぎた決断の迷いや逡巡から来たものも当然というか少なくは無いのですから。仮に原因の一端があちらにあったとしても、必要以上に相手を攻めてみたりその結果に自虐的な気分に落ち込むなど、あとになって考えてみてもやはりアホらしいことです。
     いかにも気にするほども無いのでしょう。これが彼に読まれた日には、なんともまたネチネチと言われるのではないかと心配ですが。


    【6月27日】に記したメモから 久しぶりに筆を執ります。三日目の朝9時、我々はハジャイ行きのチケットを予約していたカオサン通りの旅行会社へ行きました。驚いたことに(旅行会社の人間からしてみれば当然なのでしょうが)昨日の昼前に行かなければならなかったそうで、店のおばさんは呆れ顔半分に、残念がっているというより何かを悲しんでいるのではないかと見える様子。もちろん我々が約束の時間を忘れていたことに全ての問題があるのです。
     私は駄目になったのなら仕方が無いだろう、別に予定やら行き先を変えてもいいかなどと楽観的にいましたが、結局彼がその場で粘り、格安でチケットの内容を変更してもらえたのです。
     彼に散々言われて腹を立たせながら、確かに自分にも落ち度はあるけど同時に『お前のせいでもあるんだぞ』と言いたかったのですが、多分無駄なだけだし、空しさが増す一方で余計に言い争いが長引くだけでしょう。

     前の旅行のときもそうなのですが、人に任せることがやたら多いくせに、こちらが失敗すると呪いの森に住む魔女の如く呪詛の言葉をいつまでも投げつけてくるのですね。半ば癖なのでしょうか、最初は強烈でも途中からは面白半分のオチャラケのようでして、どうやら本人もそこまでの悪意はないのかもしれませんが、ただあまりにしつこく感じて腹を立ててしまいそうになるのです。ちょっとした出来事が実は今朝方にもありました。
     全くもって1日あったことを書いていくときりが無く、それこそ膨大な文章の量になってしまい旅記本来の趣旨からも逸れてしまう恐れがあるので、内容については色々考慮した上で割愛していかなければならないでしょう。自分自身にある意味では申し訳なく思うことも少なからずあるとはいえ……。

     鉄道までの道のりに関しても意外と面倒でして、店のおばさんに教えてもらったルートは二人ともなんとなく理解出来たという程度なのに、トゥクトゥクで駅まで行くことについては彼が保留にしたせいもあり、仕方なくバスで行く羽目になったのです。嫌な予感しかありません。
     ナンバーは分かるがどこから出ているか分からない、はなはだ無鉄砲といえる行動に私は少しばかり不安を感じ、彼の無計画さを呪いたい気分です。やはりトゥクトゥクを利用するべきではと肩を叩いて促すべきか迷い、それを口にしても無駄なのだろうなと結局諦めて(腹をくくって)後について歩き始めたのです。

     スクンビット通りまで市営バスで行き(実際には目印となるものも無くうつらうつらと乗っていた結果、運良く辿り着いた)、一旦車を降り東バスターミナルからの駅までの行程に関して調べてみました。
     しかしまた悩まされることになったのですね。前の夜に『地球の歩き方』を調べバスのナンバーについては判明していたのですが、1・20・43という3種類の数字を冠するバスがあるとの大雑把な情報でしかなく、それら系統のバスのルート上に目的のファランポーン駅があるらしい、と。
     我々は検討の結果まず乗るしかないだろうと結論し、もしも乗り過ごしやまたはバス自体に乗れないことがあったら、今度こそトゥクトゥクで行こうと決めたのでなにやら一安心です。初めてきた国でわざわざバスの系統を調べ、正しい経路を選択出来る自信など私には無かったのです。もちろん彼がそんなことを得意とするなどの話を聴いたこともありませんし。
     結局不安は的中せず、バスを利用して駅には無事に到着したのです。先ほど説明の通りチケットの内容を変更していたので(例の何かを悲しんでいるかの顔をしたおばさんのところで頼み、チケットの内容つまり出発時刻をずらしてもらっていた)、着いた頃にはすこぶる時間が余り、我々は不届きにも昼からビールを大瓶3本も飲んでいたのでした。
     気分もすっかり良く、我々はひたすら飲んでは待ち続け、やがて到着した列車にいくぶん心もとない足取りで乗り込んだのです。随分と朝から急かされたような気がしていましたが、もうそんなことはどうでも良くなっていたのです。なんとも現金なものと言いましょうか、まあ、旅は気楽に行きたいですね。もし可能ならば。




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