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    タイ旅行、後日まとめ記【7月6日】~15






    (1652字)
     私たちは少しの間宛もなく歩いていました。何分くらいしてからでしょうか、彼はガイドブックに目をやり「バスに乗ろう」と突然口を開いたのです。その場から、歩いてさらに十数分程度になるであろう距離には、かなり大きな高層ビルがあるらしく、地下に併設されたバス乗り場に行こうと提案をしてきたのです。
     確かにビルはありました。すぐに見つかるぐらいの大きさでして見つけた後は歩道橋の上を通り、細く左に折れている道をそのまま進みビルの1階へ。外見は立派そのもので円柱形の造りがひときわ目を引きつけるのでした。
     ですが私はこのビルと周りの景色を見比べ、どうにも統一感というものを感じなかったのですね。
     周りはまだまだ小さい商店や安ホテルが多く、整備されていると言ってもそれは道路を中心としたまさにこれから始まりの状態でした。確かにとっかかりのランドマークとしてはありなのかもしれませんが、言ってみれば現在は町の開発の第一段階を経たに過ぎず、にも関わらず突然高層ビル(コムターという名称)を建てるからバランスがどうにも悪くなるのだと。
     まるで最初から強いカードを使い切ってしまった、後先をあまり考えないボードゲームのプレイヤーのような感じがしたのです。当然初めは良かったのでしょうが、後から相手に追いつかれたときには打つ手がなくなっているという順序、段取りの悪さを思わせるのです。

     ターミナルがあるビルに辿り着いたはいいんですが、バスに乗るにもナンバーも分かりませんし、適当に乗って知らないところで降りたら帰るに帰れないといった悲喜劇に見舞われかねません。有体に言えば、気分に任せたまま行動していては迷子になるかもしれないのです。バンコク市内ならいざ知らず、ここマレーシアはペナンという未踏の地でございまして、全く土地勘も何もあったものではないのですから。
     彼はカバンのポケットに一時しまっていたガイドブックを取り出し、あらかじめ折り目をつけておいたページの内容をなにやら確認しているようでした。次いで前後数ページもめくられはしたものの、さっと数秒目を通しただけでパタンと閉じてしまいました。やがてこちらに向き直ると妙に人を不安にさせる自信あり気な態度で、このビルの3階にツーリストインフォメーションがあって、そこに行けばおそらく地図もあるだろうと如何にも促すのです。

     早速私たちはコムターに入りましたが、外観やガイドブックの紹介と実際中に入って見るとは全くの大違い。ビルの1階々々ごとの店の数はまださほどに、というよりむしろ少なく、いまだテナントが埋まっていない箇所が目立つ状態でした。
     フロアの中核となるであろう店舗も特に見当たらない感じでしょうか(どんな店が現地の人に特に必要とされているのかはよく分かりませんが、露店の少ないこの土地ではそれらの店がよく取り扱う安価な宝飾品や衣服、もしくは骨董品など?)。立ち寄ったフロアは大体似たようで、ビルの周りには少なくない人がいるのですが内部のやけに閑散とした雰囲気は、まるで閉館間近と間違えてしまいそうなほどなのですね。
     目的の昇りエスカレーターを見つけると、なんとなく心許ない気持ちを抱きつつもともかくインフォメーションセンターへと向かうことにしました。3階も下のフロア同様に少しばかり照明が暗く、エスカレーターを昇った正面には寂しげに佇む妙に立派な木目調のカウンターがポツリ。そして周囲は相変わらず工事中だったり、入居待ちの空きテナントばかり。
     いつ来るとも知れない観光客をひたすら薄暗いフロア内で一人待ち受けている係員、どうやら20代後半から30代半ばにはまだいかないかくらいの齢のようです。ひっつめ髪に赤色の縁をした眼鏡、体つきで言えば私よりも全体的にかなり横幅が広く、特に腕は丸々と太り例えるなら細めの丸太棒、……と言ったらちょっと失礼ですが。下に向かい厚みを増していく彼女の、カウンターに隠れた部分がどのくらいであるのか。ともかくそんなボリューム感のある女性が待ち構えていたのでした。




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    エッセイ(物語構成)【6】幸せ一粒、二粒~2(了)





    (1760字)
     N海の家は自宅から近いせいもあってか、役員だった親同士は地域の集まりで顔を合わせることが多く、幼い時分には彼女も参加していたであろう会合に僕は何度も連れて行かれていたのだった。加えて小学校から近所の同じ公立校に通ってはいたので、自分にとっては同年齢の顔見知りの少女という感覚はあった。ただ、最近の物語メディアでしばしば取り上げられるような、好意的なイメージがかなり優先したいわゆる幼馴染とは違うような気はする。
     
     中学校卒業の日、友人のN上がR川さんの写真をN海から受け取ったとの話を聞いた。式の終わった後、クラスで撮っている仲の良い友達同士のものであったり、感極まった女生徒と抱き合っている場面だったり。目を赤くし少しうつむいた彼女はピンクのハンカチで涙を拭っていた。
     その姿は何よりも清廉で、健気、柔らかな雰囲気の中に力強い美しさを秘め……。本当にこの学校生活を楽しんでいたのだろうし、友達も当然たくさんいたのだ。全力で真っ直ぐ、多分、悔いもないような毎日を送っていたのだと思う。僕とは全然違う人生だけど、それでも、同級生だった。数年を同じ教室で過ごしたのだ。同じ空気を吸い同じ黒板に向かい、正面を迷いなく見据えられた瞳の彼女、常にその横顔を見つめることしか出来なかったけれど。
     互いの家から歩いて数分の距離にある大きな交差点の近くで、N海が手渡してくれた封筒に入った写真。感謝を述べると封のシールをゆっくりと丁寧に剥がし、中身を確認させてもらった。惜しむように再度その肖像に視線を落とすと、目元を押さえる主役の脇の方に、彼女も手を前に合わせちょこんと立っていることにふと気がつく。男子が知らない、女子だけの大切な関係がある。二人は友達だったのだろう。
     
     心持ち肩をすぼめて伏し目がちに、そこには決意の強さ、揺らぎ、手探りに一歩先を踏み出そうとする者が持つ未来への不安といった、様々な思いの滲んだ瞳があった。こちらをただじっと見つめる、何かを伝えようとしているかにも写る様子を見ていると、次第にその感情がこちらにも沁み透る。彼女はいつも強かったのだ。そして、ずっと弱かった。
     切り取られた永遠の一瞬――僕は彼女たちの美しい姿を収めた写真を封筒に収めると、再び目の前の女友達に礼を告げた。
     なんて言っていいか分からないけど、ありがとう。なあ、これからはお互いに別々になるけど頑張ろうな。……まったく、感謝しなさいよ。○○がR川さんのことあれなのは、なんとなく知ってたけど。いや、なんていうか、まあ、それはそうなんだけど、N上にこのことを聞いたからさ。俺もやっぱり欲しい気がして。うん、N上も、……だったね。あのさ焼き増し料金払うから、お前の家に送ればいいかな? いいよ、ね、記念なんだから、そんなこと。みんなでカンパ集めてたくさん作ろうっていってたから、特にあの子の分は多めにね。うんうん、競争率高いからねぇ。そうか、あのさ。……なあに? ――元気でな。うん、そっちも。
     
     卒業以降彼女たち二人には会っていない。N上は二十歳過ぎまで麻雀をしたりカラオケなどに行ってよく遊んだものだったが、I畑は街中で時々見かけるくらいだった。
     時間は過ぎる。残酷に容赦無く、何もかも一緒くたに押し流すこと遠慮無く。時として胸に迫った想いさえ忘却の彼方と薄れ、この手に掴むことの出来ない記憶の蜃気楼と消え去る。
     
     最近になって再び、忘れられたはずの会話がひとつ過去の場面を伴って色づく。友達のほとんどいなかった僕にとっては、子供の頃に優しくしてくれた数少ない同級生だった。
     
     少しばかりぎこちなく、簡単に何事もなかった地点には戻れない。
     そんな時相手は、おかしな雰囲気を作ってしまって申し訳なかったとでもいうような対応をしてくることがある。
     顔を少し逸らしながら二人で乾いた笑いからいつもの調子へ、その最中にちょっとこちらも悪いことをしてしまったと、思い上がりだと分かってはいてもつい居た堪れない気にもなる。向こうがあまり出したくない、出すべきではない(と、ある種の女の子は決めつけている。これは似た立場の男にも当てはまるか)表情として務めているのに、上手く付き合えなかった。フェアではない、いや、フェアとは違う何か、か……。

     口にするほの甘い一粒、そして胸にもう一粒。




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    タイ旅行、後日まとめ記【7月5日】/【7月6日】~15 修正版





    (2423字)
    【7月5日】記 昨日に続き、マレーシアで泊まった宿について筆を執ります。よろしく!! 私たちの昨晩から泊まっている旅社と名の付く宿は中華系の人が経営していて、外は雑居ビルのようになっております。中は掃除はされているとは思いますが、どうも薄汚れた印象なのですね。まあ、とにかくゆったりとしたダブルベッドが二つでしたので、その点についてだけが唯一の救いといえるでしょう。
     洗面所は部屋の中にあり、これが後々になって分かるのですが意外と洗面所のある宿は多くはないのですね。旅の間に泊まった限りでは、設置率はどれも半分にも満たないという施設の貧弱さなのです。もちろん、安宿だからだろうと言われれば確かにその通りなのですけれど。
     旅行者である我々は主に洗面所を利用してシャツなどを洗うわけです(風呂で洗うことも出来るとはいえ、着ている服が濡れてしまったり屈みこんだりとやりにくいのですね。いざやらんかと少々意気込んで始めなくてはなりません)。彼も私も自由にいつでもとちょっとした洗濯が出来ずに困っていたのでした。
     洗面所のほかには大型のファンが部屋のほぼ中央、それと意外に立派な鏡台があり部屋自体は良かったのですが、部屋にはシャワーもトイレも無く、歩いて30秒くらいの距離にあったのです。

     実をいいますと、今までの中でもトイレは総合的に最悪でした。浄化槽に設置されたコックをひねっても水が流れず、よく見ると上部右端あたりにはまた別の穴が開いていて、そこからなにやら針金が飛び出しているという妙な作り。針金の先は固めのスポンジのような緑色の球体が持ち手として刺さっているのですね。
     私は直前に彼からトイレの水が流れないとの重大事を聞かされていましたので、そこで少しばかり思案しました。――どうやら針金はタンクの中にある穴をふさいでいる物体とつながっていて、引っ張ると物体が傾くか浮き上がり、水が流れるのではないか。案の定水は流れました。しかも私の予想以上の水量。
     ひょっとして壊してしまったのではないかと少しばかり焦らされました。しかし心配さにあらず、水はすぐに止まったのです。ところがその後は何度引っ張っても水は全く流れずに、うんともすんとも言わないのですね。何を見たとて分かるわけも無いですし、清潔とは言い難く、また鍵もろくすっぽ閉まらないトイレでは後から来る人と個室内で鉢合わせになってしまうかもしれませんから、早く出たい一心でそっと。まあ、タンクの溜まり方が遅いだけなのだとは思います……。
     部屋に帰ると、こちらの顔を確認した彼は宿の外を少し散歩するといって部屋を後にし、私はベッドの上で読みかけの本を開くのでした。


    【7月6日】記 まるで馬鹿ですね。現在私はチェンマイ行きの列車を待ち、ファランポーン駅の二階に位置するテラス席でこれを書いています。さて、相変わらず暑いですので体調には気を使いながらも、先日泊まったマレーシアの宿(なんだかしつこいようですが、日記に書かれたネタがこればかりなので)で迎えた朝、さらに続きを記していきましょう。

     そう、風呂というかシャワーを浴びずに寝てしまったわけですが、やはりといいますか少しばかり不快に感じまして。いくらか朝早くに目が覚めたものですから、彼が起きて1日の予定について色々と話をする前にとりあえずシャワーでも浴びようかと思ったのです。
     まあ元々期待はしていなかったのですが、シャワー室の鍵はがたがたで碌に閉まりません。部屋の奥には水をためておける風呂桶よりもだいぶ小さい石造りのプールがあり、蛇口から水が惜しげもなく流れ込み常に満水になっていました。
     なんとなく掬[スク]って使う気にはならず、蛇口を改造した勢いの悪いシャワーが横につけられているのを見つけ、それを使い昨日からの雨によっての汚れと汗を洗い流しました(宿に至るまでの道もバンコクほどではありませんが、交通量も意外に多く、大気汚染も日本のように基準が設けられているのだろうかと疑問に思うくらいでした。つまり、そういった空気を含んだ雨を身体に大量に浴びていたわけです)。

     汗と汚れを流し、ついでに昨日までの憂鬱やいざこざによって胸のうちに溜まった思い(雑念?)なども全て洗い流せた気分になった、ような。私は前日にあった嫌なことなど、いつまでも引きずる気質ではないみたいなのですね。もっとも、だいぶ根の深い心の奥に溜まる、当該の人物と付き合っていくうちはどうしても避けられない軋轢や齟齬の感はあるでしょう。決定的な考え方の違いと言ったら大袈裟かもしれませんが、それらはやはり一時的に目を背けるか、違和感・不快感を忘れるくらいしか出来ません。
     この後シャワー室から部屋へ戻り、十分もせず彼が起きだしたのです。こちらが立てたドアの開け閉めや、バッグパックの中身を一旦整理しようとガサゴソ手を突っ込んでいた際の音のせいかも知れません。力任せに詰め込んでは強引に引っ張り出すを繰り返していたから。いつもは目を覚ました後、眠りの余韻を残さずにすっきりとした顔をしていることがほとんどですが、そのときの彼は5分くらいボーっとしていました。何か取り止めのない考えでも頭に浮かんでいるのか、あるいは空白の中をただ漂っているといっていい半分呆けた様子なのでした。

     チェックアウトの時間も迫っていましたので、私はベッドの上で天井を見つめている相方のことは放っておいて、あまりギリギリにならないうちに先にカウンターに鍵を返してくることにしたのです。さすがに朝になると薄暗かったカウンター周辺も、高い位置にある窓から差す光のおかげでだいぶ明るくなっていました。が、さわやかな朝の明かりの中を舞う小さな埃が薄いベールとなって、カウンターの奥に座る主人を覆っているという。その顔の陰気な表情、態度に至っても昨晩となんら変わらずという、ある意味では感心するほどの徹底ぶりと評価したい気分で宿を後にしました。




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    エッセイ(物語構成)【6】幸せ一粒、二粒~1





    (2160字) 
     クラスには男子の憧れの的になるような可愛いらしい子もいれば、とりあえず中学生の示す拙い形のものであっても恋愛の対象とされない女生徒もいる。そのことと人物として魅力が乏しい――または少なくとも友達がいない――ことがイコールというわけではもちろん無く、相手にもよるわけだが、場合によってはむしろ接する際に男子側は気兼ねしないで済ませられる分だけ、彼女たちには同性の友達に似た感情を持っていたりすることもある。
     なかなか面白いもので、相手との関係性が同性(特に擬似的な男子同士として)の友人間に近いと互いの意識が合致している場合、相手の女の子は自分を女として扱われることをほとんど望んでいなかったりもよく見受けられる。別に気にするほどのことでもないなどといって、必要とあらば体の一部分を露わにしてまた触らせたりもある。特段仲の良いわけでもないクラスメイト程度のつながりのある異性へ向けられる、思春期特有の両性が半ば意固地に迷信的に持つ接し方、あるいは関係の各段階ごとに正しいとされる一般的なあり方を知っている場合。それらへの囚われが強まれば、この関係性の上ではマイナスでしかないと当人(女の子)が感じているからだ。
     とはいえ中学生くらいになればいくら気安く肩を叩き合うような間柄であったとしても、さすがに胸の周辺を触ったりするのは男子側にも憚られる気持ちは強くあるし、言うまでもなく膝より上の下半身部分などもそうだ。小学生当時に比べれば気安く触れられない秘匿の部分が増していることは、一方で成長の過程においては至極当然であるとも言える。
     たとえ仲の良い女友達であったとしても完全に男同士に向けられるものとは違い、ある一線を踏み越えそうな瞬間に突然の気恥ずかしさを知り、やはり相手は自分とは違うのだと厳然とした事実に気づかされるのだ。
     
     彼女達が女の子らしさを伴う照れや戸惑い、微かな弱さの表情を見せる瞬間に遭遇する機会は決して多くはないかもしれないが、それは意外なほど突然に現れる。いわゆる「女の子」からの、女性的に映るありがちな予想された反応よりもいくらか急激な、不意打ちの変化として受け手によっては感じられるのだ。ここには何故かしら、当たり前の事実を確かめただけのはずが発見の意識があり、同時に一種の寂しさもある。
     そんな時、何くわぬ顔でこちらも対応しようとするが、大体いきなり変わってしまったかにも見える印象や、発言や行為を促すに至った本意に内心は相当どぎまぎしていたりして、数分後には互いにバツが悪くなって結局いつも通りに戻ろうとする。
     
     触る触らせる云々とは誤解を招くかもしれない言い方なので説明を付け加えると、僕は柔道部だったので同じ部活に所属していたN海とは、当然練習の際には身体を合わせることにならざるを得なかったのだ。女子部員は彼女一人しかいず、そうしないわけにはいかないからだ。
     ところが、同級生のI畑は彼女と打ち込みや乱取り等の組み合う練習を一切拒んだ。――「女に手を上げるなぞ自分には出来ん」やらなんやら、そんな感じに。僕は、訳の分からないことを言わずにやらないと向こうは相手がいないんだからとか、あと女だからやらないなんて失礼だろうなどと諭してはみたのだったが、彼は頑として組もうとはしなかった。
     やり取りを見ていた彼女は、「○○(僕の名前)の言うとおりだからね。別に気にしないでよ」と、彼の肩にふっと手を掛けそう告げた。僕としては道理の分かる味方が出来たとばかりに、横から少しばかり調子に乗って口にしたのだった。「本当だよ、胸に触ろうが股間に触ろうが、練習なんだったらしょうがないだろ」「それはさすがにダメでしょ」背を向けていた女子部員はこちらに振り返り、呆れ顔で釘を刺されたが。
     
     彼女たちにも好きな男はいたのだろう。ひょっとしたらいつもじゃれあっているクラスの連中にいたのかもしれない。しかし相手は、例えば学年のアイドルに夢中になっている。自分はその女の子とも友達だし、いつも一緒にいるアイツも気になるしと微妙な心境。恋愛漫画ではありがちな設定だが、もしキューピット役などを頼まれたりしたら複雑な気分だ。 
     
     中学二年生のバレンタインデーの日、昼休みにN海からチョコレートを受け取った。義理チョコではあっても、確かに嬉しかった。口には出さずそれでも微かな期待を捨て去ってはいなかったとはいえ、結局は誰からもなどと内心は考えていたので、実際には放課後を待つまでもなく想像したままになるであろう僕のことを気遣ったのではないか、と。
     ただ、その瞬間は突然にしかも随分とあっさりしたものだった。意中かどうかはそれぞれとして戦利品を手にした周囲の男子連中のような、殊更になされる照れ隠しの過剰な反応すら追いつかずにいるほどの。向こうはまるで、先生に頼まれた教科のプリントでも皆に配るみたいな気安い調子とでもいうか、ほとんど事務的な感じで渡してきたのだった。 
     受け取った後、伏せていた顔を上げても視線を追わせることが精一杯となり、何を考えているのか少しだけを溜めを作ってから振り向いた彼女は、いつもの笑顔を見せた。
     馬鹿話をする時のように大口を開けて、あけっぴろげに楽しそうに、本当に心から楽しそうに。




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    タイ旅行、後日まとめ記【7月2日】~14 修正版







    (2556字)
    【7月4日】記  7月4日です。現在ハジャイ駅近くの大衆食堂で筆を執っています。さて、だいぶご無沙汰でした。日々の細かな場面や些細な出来事に伴う感情とをいちいち紙に記すことは難しいですが、そういった感情の中にもやはり私自身が現れているものです。一度失われた記憶の断片はようやく繋ぎ止めていた紙よりも軽く、どこまでも風に飛ばされるでしょう。
     二日三日と経ち、ある出来事の中の細かな描写は削ぎ落とされ、そのときに感じていた思いには当たり障りの無い形のみが残される。経験した現実は整理棚に収まりやすく姿を変える。動きのあるものは押さえ込まれてしまい、角の飛び出した部分は適度な丸みを持たせるために切り落とされるということです。
     数ヶ月数年を経た末に整理された目録達は記憶の小箱に収まっています。いつか、あの瞬間を再び引き出そうとするとき、干からびた目録はかって誰もがそこでは同程度の経験をし、またいくつかの類型化した中からおざなりに選ばされた感情があった、ということを教えてくれるだけです。仮にそこから受け取る正体の知れない感覚の断片があったとしても、時間の孕んだ優しさと予定調和を重んじる懐かしみの中に抱え込まれ、やがて消え去ってしまう。
     
     あの日雨が、そう突然私たちの訪問を待っていたかのタイミングで降り出しました。以降は前に述べたとおりですので、さらに店を出た後のことを追っていきましょう。
     一時的に止んでいた雨のあいだに、何とか宿を探そうと周囲に注意深く目配せをしていたのです。彼とはいつも以上の協力をし、目を皿のようにしながらタイムリミットを迎える前に探し出さなければならないと、それこそ随分と必死になって。
     足早に通る前にいちいち左右に視線を向け、店の入り口を確認し同時に顔を上げ『HOTEL』の文字が無いか、看板を見落とさないように注意深く探していました。ですが、なかなか適当な宿は見つからずに二人は結局目抜き通りの端近くにまで迫っていました。ここの通りを過ぎてしまえばさらに店の数は減り、見つけることも困難になるのではと私は憔悴しかけていたのです。
     雨が止んでいる短い合間を見計らって店を出るかと決めたときも、手っ取り早くベッドと屋根を確保出来るならばそれで構わないと考えていました。はっきり言えば選り好みなど出来ませんし、いつも安宿に泊まっているので劣悪な環境には慣れていましたが、逆に多少値が張るホテルに泊まることになっても一泊だけなら仕方が無いとも……。ただ、ある意味ではやはり私も貧乏生活に慣れ過ぎたせいか、少しばかり金がもったいないかもしれないと逡巡しつつ、それでも今回はしょうがないと腹を括っていたのです。
     しかし、私がやむを得ないだろうと発言しても彼は首を縦には振らないでしょう。だったら野宿をと言い出すことも十分ありえる男なのです。その日のうちは雨が再び降る心配もありましたから野宿は現実的ではありませんが、彼が納得するくらいの宿を探し出すことはかなり難しいのではないかといった、嫌な予感が頭の中を駆け巡りました。食堂を出た時点で、すでに宵闇が空を覆い始めるまでの時間となっていたのです。

     あてを無くした気持ちでキョロキョロと周囲を見回していた私の肩を、突然彼が掴んだのでした。視線の向けられている先を辿ってみると、そこには幅五十センチ狭くボロい木製の階段があり、どうやら登った先の薄暗闇はホテルの二階にまでつながっている? 通りを探している最中も、「奴は本当にホテルを探しているのだろうか」と訝りたくなるくらいにほとんど真っ直ぐを向いて歩いていたようにしか見えなかったのです。
     ところが彼は、自分達(自分)にふさわしいと思われるボロ宿を見事発見していた。それはただの民家の裏口か、集合住宅の玄関につながる階段の造りにしか見えず、だからというわけではありませんが、情けないことに私は見落としていたのでしょう。相方が持つ安宿探しへの執念と嗅覚は本当に見上げたものだと言わざるを得ません。
     
     階段を昇ると意外に広い空間があり、中央には受付のカウンターがありました。綺麗に整理されているのではなく、元々極端に物が少ないのかもと感じさせるような殺風景な見た目と言ってもいいでしょう。今までの安宿は大体受付の周囲は宿帳やら地図やらペンやら、それにつり銭用の小銭が少々転がり、主人の食べかけの丼などが客の目も気にせずに置かれていたものでした。
     目の前のカウンターには空のコーヒーカップと小さなメモ帳が置かれているだけ。一人の中年男が、壁のやや高い位置に据え付けた棚に載せてある白黒テレビに顔を傾け、ほとんど無音かと思われるほど非常に小さな音量で古い怪奇映画を見ているという、なんとも鬱々とした様子。店の主人などは非常に無口無愛想な男で、なんとなく話しかけることが憚られてしまうほどです。
     なんだか陰気な雰囲気のする宿だと、こちらに関心を示さない主人を無視して店を出る相談しようかと考えていたところ、彼は「ここでいいよ」とだけあっさり言い放ったのでした。何を躊躇うでもなしに、言い終わるが早いかそっぽを向く主人に対して片言の英語で早速話しかける、これまた神経の図太さ。こうなっては今更階段を降りるわけにはいきません。それに階段の下からは石畳が連続して激しく打ちつけられる音が聞こえてくるのです。熱帯特有の気まぐれな雨が小休止を終え、再び降りだしたようでした。
     
     狭い上に冷房の強烈に効いた乗り合いバスに長時間揺られ、ついたばかりの私たちは行くあても無いまま、適当な場所で下ろされやがて強烈な雨に打たれたのです。普段は乗り物酔い(船などはなおのこと!!)をしやすい体質なのですがその日は一向に気配も無く、乗り合いバスを載せた大型船のデッキが今日は唯一落ち着ける場所だったというのは、なんとも皮肉な話と言えるでしょうか。
     実際、二人とも疲れきっていたのです。身体もなんとなくべたついていますし、すでに服は乾きかけてるとはいっても、強い雨に降られたことで芯に伝わる冷えがありました。床をミシミシと鳴らしながら、多少重い足取りで彼はシャワーを浴びに行きました。私はどうするか一瞬迷いはしたものの、結局ベッドに潜り込み、その夜はシャワーから帰ってきた彼が部屋のドアを空ける音を耳にしませんでした。




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    エッセイ(物語構成)【5】人生の仕事始めに~4(了)






    (2032字)
     しっかりとした傷による痛みとは違う、突然に知らしめさせられた不吉な病名の息苦しさ。当初胸へと広がっていった染みのようなそれは、僕のなかで時間の経過とともに次第に薄まっていった。日々、平凡で順調な毎日を重ねていくにつれて、あまり意識するまでは強く感じられなくなっていった。

     働き始めて一年後くらいだったか、女子大生風の女の子二人が新たにバイトとして入ってきたのだった。一人は黒髪で落ち着いた雰囲気をした長身の美人、もう一人は少し茶色がかったショートカット、こちらは対照的に頬が少しふっくらとした可愛らしい顔で、身体も小さいせいか少し幼くも見える。早速数日のうち彼からどっちが好みかなどと、体裁は質問実際には問い詰めを受け、どちらもまあまあ魅力的ではないかとの無難な応えでとりあえず茶を濁すことにした。
     ただ、仕事を教える機会があったから本当は茶髪の子のほうがより親しみが持てる、などということは冷やかされるので彼には言わなかったのは、高校生男子特有の照れと自意識なのだ。

     あるとき、休みの日に店から近いJRの駅前にでも待ち合わせをして、バイト先の四人でボーリングに行こうと突然の企画が持ち上がった。
     ショートカットの彼女はボールを両手で抱えるようにしながらちょこちょこと不器用な走り方から、ほんの先に落として転がす少し変な投げ方。そのせいもあってかは分からないが、七十点から九十点台のあいだの成績ばかりだった。まあ点数が伸びないのはこちらも似たり寄ったりなので楽しければいいのだ。あまり経験がないとレーンに対してどうやって助走をつけるか分からないので、愛嬌があってそれはそれでいいじゃないか、とも。
     次の日D村と前日の遊び全体も含め色々と話していた際、彼女についての話題から思い出したのか、走り方を少しからかうかのように笑いながら話すのだった。ちょっとその様子が気になったのと、僕の多少の気がバレてしまったかと思い、「お前はあっちの子と付き合えよ。お前のこと、高校生のわりにしっかりしてるし仕事の面でも頼りになるとか言ってたぞ」などと黒髪の女子大生と彼をくっつけてしまおうと企む演技をしてみせた。
     あえて大げさに茶化したこちらの発言を受けては少しヘドモドし出し、普段の活発で積極的な感じからは想像のつかない純情さを露呈、話題は逆転、立場も攻勢に転じたのだった。
     結局僕が知る限りでは、それ以上の深い交流もバイト仲間という関係からの進展もなかった。

     互いがいつ店を辞めたのかはっきり憶えていない。おそらく彼の部活が忙しくなり、こちらも勉強にどうしても集中しないといけない時期が重なったのではと推測している。どちらが先に店を去ることになったのか順序は定かではないが、ともあれ仕事は無難にこなしていき、中の人間とはまあまあ上手くやっていたのだ。友人は年上の人間との付き合いが上手くオーナーや店長に可愛がられていて、つまりその辺に関しては問題はなかったろう。
     以前に軽い小言を口にしていた副店長とも、それ以降記憶している限りでは良好な関係であったはずなのだ。もちろん他人と一つの場所で働いている以上、小さな軋轢やすれ違いは完全には避けられないものだから、多少のことはあったかもしれないが。
     ある程度のマトモな理由があり、しっかりと手続きを踏んで迷惑をかけないように最後を迎えたと思う。一年以上世話になっていたので、立つ鳥である僕が跡を濁し過ぎてしまってはさすがに申し訳ないし、あり得ないと信じてもいるのだ。
     以降オーナーからバイトの進退に関しての話が出ることもなく、上にも書いたように奥さんや息子が出張[デバ]ってくることもなかった。少なくともそちらの点では、店長やらあるいは副店長も壁になってくれていたのかもしれないと、今では思う。最後まで一応だけれど全うさせてくれた。

     あれらの経験が、現在の自身にどう活きているかは分からない。ただ、人生の仕事始めにしては我ながら上出来ではないかと、総合的最終的に評価している。確かに胸を探れば小さな影みたいにある、現在にまで続く正体のない不安感や所在ない気分、自分自身を頼りなくする感覚はあった。であっても、一方では追いつかなさをあえて押し込め、空回りや失敗を繰り返しては徐々に学んだのだ。僕なりの拙い仕方でもトラブルに対処しようとし、嫌なことから逃げずに耐え多少は乗り越えもしたからだ。
     不甲斐ない自分の今の状態を見るにつけ、あのときの若い身でも何とか頑張れたんだと奮起の材料の一つにでもなれば――。そしてそれらが良い仲間や上司に巡り会えてこそだった。最良の形などというものは分からない。あれらは「僕にとって」の出発の地点であり、美化や多過ぎる含み込みを理解した上でもやはりなお、現在このときにでさえ振り返れば目標とする、働く姿のひとつでもあるのだ。
     だから自身に対してだけは声を大に、いや、少しだけ潜めて遠慮して言おうか。……全く意味のあるアルバイト時代だったと。




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