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    エッセイ(物語構成)【8】ARAMAKI~1

    ~2002年あたりを振り返り~

    (1978字)
     大学に行かず就職せず、私は日々をそれとなく過ごしていた。時々日雇いのアルバイトで働いては数万円の収入を得て、働いた日数の数倍近い時間を少ない蓄えを節約しながら使うことによって無駄に費やした。
     なんというかそう、もうすぐ二十三歳になってしまう。その歳はあくまでも私の中でしかない感覚ではあったが、かなりやばい年齢の一つだった。大学を順調に卒業した友人が次々に就職を果たし、気づけばあっという間の一年が経つ。
     それならば、現在の自分が最後の数週間を名残惜しそうに引きとめようとしている(せめて時間よゆっくり進めと)、二十二歳のほうが切羽詰まった気分にならないかとか、二十一歳のほうがさらに、いや、大学に行かなかったのならば十八十九ですでに進学した人間が当分棚上げにし、彼らが得ることの出来ないものを積極的に求めていこうとしなければ四年後に一気に逆襲を受けるだろう、などなど。

     それは非常に強力でこちらの一歩に対して常に二歩で迫る(または差を広める)。こちらの一つ目の準備としては、かなり消極的でクソみたいな考え方がある。例えば彼らが、場合によっては三流四流の大学に入学しただけで満足し、学校での複数年を無駄に過ごして気づいた時には何も社会に出ていく際に役に立つ能力を身に着けていなかったという、そんな人間が一人でも多く最高学府から排出されればいいと密かに願う、後ろ暗い祈り。
     もう一つは心頭滅却、滅私奉公といった具合に下働き同然の数年であったとしてもひたすらコツコツと経験を積み――最終的には大卒に生涯年収を抜かれるのだとしても――、それなりに安定した立場を築こうとするやり方だ。経年の末にしか積み重ねられない歴然とした技術の取得を目指し経験知を求める、前向きで建設的な考え方といったところか。
     私はどちらも望んだり目指したりもせず、ただ日々を喰い潰していた。

     とはいっても、一年に一回づつ年齢を重ねていくことはこの地上に生きている限り避けられない。日めくりカレンダーの薄く儚い紙の重みをもって、一日一日は非常に軽く、ほとんど何の意味もなく切り取られ引っペがされる。ただ、その虫の死骸のごとき重さが一年をかけて、じわりと知らず知らずに積もり続ける。
     就職を先延ばしにするためもあったが、以前就いた仕事の失敗から数少なくも学んだ事実として、どうやら年齢的にも高校卒業後ホヤホヤの十八歳の若者と肩を並べるような仕事は不利だろうと――つまりそういった職種は私には向いていないのではと――感じ、入学試験の必要ない専門学校に進学することにしたのだ。
     専門学校を卒業すれば短大の準学士と同等の資格が得られるらしく、自らが望めば大学三年次編入も出来るし公的な資格の受験資格もいくつか得られるはずという算段。まあ、どちらにしろ場合によっては在学中に自分にあった仕事が見つかれば、それはそれでいいではないかとも。

     いくつか候補はあり、それまでは就職について少なからず考慮することも念頭に置き、会計などの資格を手にするための勉強が出来る場所にしようかなどと考えていたのだ。が、結局すべりこみでたまたま取り寄せたパンフレットを目にした瞬間に全く別ジャンルの学校に決めたのだった。
     私はどうしようもない無能な人間で何の経験も技術もこれまでの生活で身に付けてこなかったし、ちょっとでも仕事へ活かせる趣味の類があれば良いのだが、そんなものは一切持ち合わせていないのだ。大体の問題として、多少固まりつつも同時に複雑な面もある性格、年齢的にもまだまだ難しいところのある彼(彼女)らを同級生としてやっていけるか?
     いやそんな心配をする前に、まず実際の最大の欠陥として私には人に好まれるための基本的な人間的魅力が残念ながらないのだ。
     さらにもうひとつの悩むべき点。仮に再就職を目指すかまたはでなくとも、あまりにまともそうな人間の集まるお堅い感じの学校では、自分は目的意識の希薄さから勉強についていけないのではないか? 周囲から浮き上がってしまい居心地の悪い思いをするのではと、多少考えすぎの感もある不安はあった。
     一方最終的に選んだそこは雑誌の編集やカメラマン、ライター養成のための専門学校だったので、自分の唯一の無為な趣味である読書を活かせる機会があるかもしれないと思ったのだ。集まる人間もいくらかちゃらんぽらんなのではないか、と。胸を張って口に出して言える恥ずかしくない夢(本当はあらゆる意味で恥ずかしがらなければならないことを知らぬ、世間知らず故か)といえば、小説家になるということだけだったから。
     いつか小説家になる、成れる成ってやると心の中でだけは大言壮語を繰り返していたのだ。まるで子供がヒーローになるといった可愛らしい夢と似たり寄ったりの実現度なのかもしれないと、認める現実は避けつつに見つめる、もう一つの現実。




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    テーマ : 思うこと
    ジャンル : 学問・文化・芸術

    タイ旅行、後日まとめ記【7月11日分】~17





    ※下の文章は「旅行記」として書き起こす手前のメモ書きのようなものです。内容に関してですが、読んでいただければわかる当のかなりひどい状況でした。より生のままが伝わればと思い、今回はほとんど手を加えずに投稿します
    ※※文体が従前のものと異なっておりますが、次回から元に戻ります。ですが、以降語尾は敬体『です・ます調』から常体『だ・である調』へと変化します

    (1519字)
    17日目 トレッキングガイドはいいやつ。40歳くらいの痩せ型。客は私達二人を除いて三人とも黒人。男性二人に女性一人。男は二人とも坊主。それほど背は高くない。両方ともがっちりしているが、片方は少し肥り気味。もう片方は眼鏡をかけている。二人とも20歳前後か。女性は特に下半身がむっちりしている。大体同年齢か少し若いか。
     私は水田の畦から足を踏み外し、片脚を膝あたりまで泥まみれにする。相方は身軽に狭い畦道をひょいひょいと歩いていた。黒人の三人組は身体のバランス感覚が悪いのか、悲鳴を上げこけそうになりへっぴり腰でヨチヨチ歩きをしていた。途中で雨に降られる。ガイドは確か雨具を使わなかったはず。
     部屋は区切られていないので、ログハウスや山小屋というよりは丸太組みの高床式倉庫だった。夜になりかけた頃の到着。内部も薄暗いが、周囲はさらに暗い。
     ひどい腹痛と熱があり、ふらふらの状態でトイレに向かう。トイレは当然水洗ではない。照明はほとんど頼りなく、しかも紙が無い。タイ式の洗浄の仕方は慣れていない上に、なおさら龜[カメ]に溜めてある水を柄杓で掬って尻を洗浄するのは抵抗があった。

    追記〈3〉 2013・11・15 普通の宿のトイレなどでは大体日本と同じようにペーパーロールが備え付けられ、それとは別に習慣に慣れた人向けに長いゴムホースを操っての現地式洗浄行為も用意されている。後者のほうが当然綺麗にはなるし龜に溜めた水の場合でも同様なのだ、と旅慣れた人らは語る (追記〈3〉了)

     ふらつく頭で周囲を見渡すと、少し離れたところに袋がひっかけてあった。目の高さくらい。どうやら使用済みの紙はそこに捨てるらしい。ただ暗かったせいもあってか見た目は全く汚れていないように見えたので、仕方なしにそれでも恐る恐る綺麗そうな紙を取り出して拭いた。
     ほとんど眠れなかったが隣りで相方はすやすやと寝ていた!!


    18日目 朝食抜き。紅茶二杯。トイレで吐いた。ガイドの厚意で急坂をバイクで下り、ふもとの小屋で4~5時間休憩する。寝床とトイレを行ったり来たり。下痢が相変わらずひどい。当日予定していたイカダ下りを相方だけ辞退する。車でSKホテルに帰る。熱はまだ結構あるし身体はかなりだるい。死ぬかもしれないと思った。
     ホテルのトイレにあるシャワーの熱水を便座に座った状態で、腹に十数分間当て続けた。その間は少し楽になって腹痛は軽い。相方はなにやら泥棒市場(?)というバザーに行くとのこと。こんな状態の自分を放っておいて買い物かとの苛立ちを起こす気力すらなく、ああそうか土産を頼むと見送った。伝染病だろうかとの不安がふと頭をよぎる。


    19日目 朝起きてまずは水を飲む。まだ下痢がひどいのでO先生にもらった『タンナルビン』を一包飲む。効き目は不明。そんなすぐには効果があるはずは無いことは分かっていたとはいえ、何かに縋る気持ちを抱えて再びベッドへ横になる。
     駅でバンコク行きの切符を買い4時間待った。列車内では下痢の兆候は無い。列車係りの親父が頑固親父だった←(よく分からない)9時頃には寝た。


    20日目 朝になって我慢出来ずにトイレに立つ。小便が少々でるも、今までは小便のみでも排泄時の腹圧変化によって大きいほうも出ていたが、今回はそれは無く屁だけが出た。おそらく治った。
     以降から徐々に調子がよくなる。バンコクについて外で飯を喰ったところ、思った以上に食が進まなかった。病気から回復したようで苦しかった最悪の状態を脱したためか、気分はかなり良かった。とは言っても体はだいぶ消耗していたに違いない。
     その後バスに乗り、乗りっぱなしで当ても無く座席から外を眺めていた。夜9時にカオサン通りに着く。三度目の食事。




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    テーマ : 海外旅行記
    ジャンル : 旅行

    タイ旅行、後日まとめ記【7月11日】~16






    (1650字)
    【7月11日】記 16~20日目について
    16日目 トレッキング(定義はよく分かりませんが、ちょっときつめの行程などが含まれた泊りがけのハイキングみたいな感じでしょうか?)の予約をしました。二人で3200Bというのはタイの物価からするとかなり高いようでもあり、しかし今回の旅で事前に計画していた数少ない予定のひとつなのです。なにしろひたすら節約貧乏旅行をしてきたわけですから、私たちの意見は一致したもので少しくらい奮発しても罰は当たらないだろう云々。
     だいぶ粘ったところで値切りは200Bが限界だったでしょう。そもそも、ガイドや宿泊施設の利用費がどうしても掛ってくるので値切りは無理があるのではないかとも考えていましたら、彼は例によって値切りを敢行したのでした。確かに旅の最初の頃は、店の主人などを相手にしつこく交渉する彼の姿を恥ずかしく思うことが多かったのですが、最近ではそれにも馴れ今回はどれくらい値切るのかと、初めから交渉すらしなかったりすると少し物足りない気分にさえなったりして、一種の中毒症状があるのかもしれません。

     ともかく、トレッキングガイドを紹介してくれる宿を探すためにチェンマイの駅前をうろうろとしていた際、たまたまこの宿の看板を見つけたのです。運良く宿には日本語を話せるチーフスタッフ(主人?)がいたことも、そこを選んだ大きな理由の一つではありました。件の日本語の達者なスタッフもしくは主人かもしれませんが、その人は穏やかな笑顔をした中華系の可愛らしい女性だったのも、選考基準に加点されたことは確かです。
     ガイドブックによれば、さらにもう少し安いトレッキングプランを提示する宿もあるらしいのですね。というわけでその晩泊まる場所とは別になるか一緒になるかは分かりませんけれど、場合によりけりそこでの宿泊料が高ければ利用せず、代わりに直接出発地点に朝集合のトレッキング単体で請け負っている宿はないかと、当初駅から街に向かう路々で彼と相談してしていました。
     ただ駅前周辺はバンコクとは較べるまでもありませんが、前回今回に訪れたタイ・マレーシアのどの都市よりも田舎なのですね、はっきり言って。値段や内容等々、具合の良いのを提示してくれるところはどこだと悠長に街中を探し回っているうちに、下手をすると初めて降り立った土地で宿すら見つからずに日暮れを迎えてしまうのではと、私は恐れていたのです。

     そういえば宿で産まれて初めてドリアンを食べました。ドリアンがどのようなものであるかはTVなどで聞いてはいましたが、戦々恐々実際鼻に近づけると確かに何かが発酵したような強いニオイはしたものの、大袈裟に言われているくらいにひどくはありません。味は粘っこいほどに濃厚で、口に入れてしまうとニオイは気にならなくなりました。
     ちなみに宿で食べたドリアンは、日本のスーパーなどでよく目にする発泡スチロールパックにサランラップが被せてある切り身のタイプでした。部屋で一旦落ち着いてから、旅の途中どこか(忘れた)で購入したサンダルに履き替えナイトバザールへ出かけたのですが、ドリアンを買ったのはそこです。それ以外に土産品として、オレンジ色の開けづらいビニールに包まれた魚肉ソーセージのような見た目の、紡錘形に包装されたドリアン練り飴も一本購入しました。日本の一般家庭の冷蔵庫にほぼ常備されていると言っていい、アレに似た感じのです。
     後日談になりますが、バンコクで買ったインスタント・タイ・ラーメンはともかくとして、練り飴のほうは独特の香りがさらに強められていたせいか、家族には不評という残念な顛末でした。
     次の日朝早く目覚めると、枕もとのナイトテーブルの上に置かれていた食べかけのドリアンに数百匹の蟻が群がっているという、女性ならば悲鳴を上げるか卒倒しかねない現場を目にすることになります。そんなことも露知らず、夜の熱帯にべたついた肌を窓から通り抜ける風が撫でつけ、次第と穏やかに熱を冷まし、深い眠りへと誘われていく心地よさにうっとりとしていた私なのでありました。




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    テーマ : 海外旅行記
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    エッセイ1話まとめ(雑記)【7】私の顔






    (3868字)
    〔1〕/〔2〕
     おそらく私の頭の中を支配している感情はネガティブなものばかりなのだ。昨日だってそうだったが、ある仕事の途中で妙に薄暗く嫌な気分になり、どうしようもなかった。
     本当のこれだからこうなのだとの原因など分かるわけがない。ただ、自身に振りかかることが様々な形を持ち、あるいは形を持たずに大なり小なりのそれは突然に襲ってくる。例えば人の意見やらただの会話、または指示であることも。時には十メートル先から密やかに聴こえてくる、噂話のような形をした何かだった。しかも無視出来ない問題としては、仮にこの身に関わらない事柄が扱われていたとしても、場合によっては同様の感じになるのだ。

     私は特に人間嫌いというわけでもない。むしろ普段は、といっても少しでも鬱気味になると駄目だが、それでも人間関係に軋轢等々を起こしそうな言動に関しては――執心するとまではいかなくとも――案外気にする質なのだ。余程我慢しがたいとの思いかどうしても口すべきの確信がない限り、大抵は人の機嫌を損ねると疑らせるまでの発言自体を控えている。もし言わなければならないほどの状況になってしまったら、やはりとりあえず適当にごまかしてさらに相応しい時があるはずだと、自分に言い聞かせるだろう。

     現在勤め先の職場には如何ともしがたい難物がいる。言い争いなどはもってのほか、議論などという生産的な対話をする姿勢が向こうには全く存在せず、こちらにはほとんど頭ごなしの態度でしかものを言ってこないのだ。
     ある時は一緒にやっていた仕事の仕方について説教をされた。その言い分を整理すると、一番の古株である自分は、携わる工程に複数の人間がいる場合は好悪で彼女が勝手にパートナーを選ぶ権利があり、また瞬間々々に有する気分の単純な快不快に伺いを立てるのを忘れてはいけない、と。自分に特に気を払えということだ。
     あるいは余分に手間がかかり面倒(であってもやらなければならない)な作業となれば、とりあえず先延ばしにする。もしくは他に忙しそうにでも立ち回っている他人へ平気で任せてしまうことをしてもいい権利がある、とでも言わんばかりでいるようだった。職場で定めたルールに従わなかったり、自分の都合のいいように規則をねじ曲げたり無視したり迷惑さえかけているわけで、しかし当人にもそういった意識は全くないほどに思慮が欠けて、というより迂闊であるわけでもない。
     発言の際には相当の頻度である種の後ろめたさがあり、周囲の人間や若手の一人である私には特に、自分の考え方や仕事のやり方に従うよう半ば強いてくるのだ。言うなれば共犯者作りの一種だ。
     彼女は、何かあるたびに私より数倍の長さと厚みがあると誇る人生を持ち出して、自分の理解では仕事というものはこうこうこうやってやればいい――といった感じで自らの人生観や仕事観について語り出し、今時の若い奴は気が回らないとか図々しいなどと必ず最後に付け加えるのだ。
     彼女の求める気の利かせ方は、ようするに自分の代わりにもっとしっかり働けということらしい。それでいて簡単だが見栄えが良い、おいしい仕事だけは自分に残して(量や回数はこちら側でいい按配にしないといけない)、時々は思い立ってよっこらせと、過ぎたほどにも大げさにこなしてみせ――彼女の年齢的には許される、と少なからず本人は信じきっている演技をして――ちゃんと仕事をしましたよとの満足感をたまには得たいのだ。
     実際には言うまでもなく、自分自身の達成感を得る、より以上に彼女が求めているのは上手い仕事の手の抜き方で、またほとんど期待出来ない罪悪感からの行動などでもない。周囲の目に対するポーズとしての面のほうが明らかに、動機としてはおおよそを占めていることは間違いない。

     様子を窺っている私を含めた人間は当初、半ば辟易半ば恐々としながら重い腰を上げる一挙一投を遠巻きに眺めている。ただしいつまでも、というわけにはいかない。見ているのを本人にバレている上で声をかけずにいると後が怖いのもあるし、過重な作業をこなしている等の演技は次第に無言への変化の過程で実際的になっていて、相手の実年齢ゆえに放っていくわけにもいかない気分にさせるのだ。
     また、彼女のことを表面的にしか知らない別の部署の人間や、時間帯によっては暇を持て余し、一見無意味な巡察程度に四方を後ろ手に歩き回っている幹部職員に見られたくないからだ。若い連中が仕事をしていないのではなどのおよそフェアでない考えを、一瞬の思いつきにしろ頭に浮かび上がらせたくないといった理由で。
     こちらが仕事を一時放り出し手を差し出す時でさえ、すわ小走りで駆けつけなかったとなれば、助けるタイミングをわざわざ遅れさせたのではと疑ってかかってきたりするくらいが、まさに彼女なのだ。挙げ句、対応が恩着せがましいと見て取れば(ほとんど被害妄想だ)途端に不機嫌になってしまい、持ち上げようとしていた荷物をひったくってしまうこともある。


    〔2〕/〔2〕
     よく、その人の口癖で『いやらしい』という言葉を聞いた。たまには口うるさく嫉妬深い彼女とは違う他の立場にいるまともな人間とでも、色々仕事の話をすることがある。あまり込みいっていない、直接回答を求め合わない程度の話題としてだ。
     こちらが求められるままに何かを主張した際、まともではない側の人間(つまり難物の彼女)がたまたま同じ場に居合せていたりなどすれば、何を思ったのか、一瞥だけしてから吐き捨てるように、それでいてじんわりと身にしみる小声で『いやらしい』。今度は寸前まで仕事の話をしていたかの相手が部屋からいなくなった後、わずか数秒前に扉から出ていったばかりの背に向けられる『いやらしい』である。
     全く何がそんなに気に入らないのだろうか……。さすがに、他人の分まで含めた文句を私へだけ言ってくるよりも心理的負担が少ないのは望むべくところであるにはある。しかしその様子では、自分の居心地の良さを求めるあまりいずれ自らの首を絞めることになるのではないかとも、さすがに心配というかある意味では不憫にすら感じるほどだ。

     彼女とのあいだに何かがあるたびにうんざりした気分になるわけだが、だからといって職場を放棄するわけにもいかない。とはいえ一時的にせよ、普段からの打つ手なしと諦めの混じった感情をいよいよ強めつつ、さすがにも暗澹たる気分の極まりの際にはしばし事務所を離れ一人にならざるを得ない私。鏡をのぞきに洗面所へ向かうと、薄暗い照明も相まってなんともひどい顔をしている自分に対して、情けないと嘆息の混じった言葉しか浮かんでこない。
     少しだけ笑顔を作ってみようかと何気なく試みてみたところで、顔面の筋肉がひきつっているだけの滑稽な表情しか出来ないことに気づく。しばらくそのままに鏡を眺めていると、直前に歩いてきた廊下の反対あたりから呼ぶ声。よく聴いてみると声の主が例の彼女であることが分かる。
     その時は何も考えずに洗面所を後にしようとするが、去り際に思いがけず鏡が視界の端に入ることになった。こちらでは残念ながらうまく表情を作れなかったにも関わらず、あちら側は苦虫を噛み潰したかの意外に悪くない調子で口元が歪み、いやそれより目につくものとなる竦めた肩が首を窮屈そうにさせていた姿――。どうやら、無理に留められひずんでいるというより、全体が自発的に粘り腰の反発力を蓄えているとでも言いたげに、押し黙ってはいるものの着々と準備の整えられている不満が主張されているようだった。
     それでいて、鏡に映る瞳は確かに暗がりの中へ沈んでいたせいもあってか尚更、ステンレス製の流し台の光を反射して周囲から浮き上がる分だけ妙に不敵な生命力を宿していたのだった。俺はまだ完全にはやっこさんに打ちのめされていない、まだ大丈夫だと、むしろこちら側へなんとも陽性の励ましを送ってくれてさえいたのだ。
     
     ところで私の苦笑いというのを自分で想像している限りでは、如何にも実人生の重みがよりらしさの渋みとして顔に滲んでいる、60年代あたりの西部劇俳優のそれをイメージしている。
     人生に倦んでいるといったスタンスがあり、何に対してもまともに取り組もうとしないかつての英雄であった老いたガンマンが、ふとした事件をきっかけに街を守るため死地へと赴く終盤近くの場面。
     肉体は衰えたとはいえ腕に覚えが確かにあり、敵の数もそれなりのものだと予想されてはいるが勝算がないわけではない。しかし、あえて生きて帰ってこれなくとも構わないとのことを、周囲に伝える。
     死にたがりや世間に対しての無関心さは以前ほど強いものではないが、だからといって単なる照れ隠しのポーズであるというわけではない。自らの影に漆黒の杭を打ち込まれたように、生を確かに倦んでいることは事実だった。

     酒場で一人過去を回想する元英雄。単なる一時起こった気の迷いだろうと自分に言い聞かせながら、それでも軋む揺り椅子に凭せ掛けた体をむんずと起こす。手の内に持たれ口に一度近づけられた酒瓶が寸前の躊躇いからテーブルへと、出番を無くしすっかりぎこちない動きとなってしまった長年来の相棒に久方振りの油を差す。心を奮い立たせ街のために最後の戦いを迎えんとする男。
     無力からくる卑屈な無抵抗主義に何とか打ち勝とうとしている、最後の誇りを失うまいと荒野の酒場に数人の男女が集い、生きて帰って来て欲しいと伝える。
     男は何も言わずに片方の口角を心持ち引き上げ、ヤニにくすんだ歯先が一瞬見え――そんな苦笑いを私はしたいと、常に思っているのだ。




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    エッセイ(雑記)【7】私の顔~2(了)





    (1848字)
     よく、その人の口癖で『いやらしい』という言葉を聞いた。たまには口うるさく嫉妬深い彼女とは違う他の立場にいるまともな人間とでも、色々仕事の話をすることがある。あまり込みいっていない、直接回答を求め合わない程度の話題としてだ。
     こちらが求められるままに何かを主張した際、まともではない側の人間(つまり難物の彼女)がたまたま同じ場に居合せていたりなどすれば、何を思ったのか、一瞥だけしてから吐き捨てるように、それでいてじんわりと身にしみる小声で『いやらしい』。今度は寸前まで仕事の話をしていたかの相手が部屋からいなくなった後、わずか数秒前に扉から出ていったばかりの背に向けられる『いやらしい』である。
     全く何がそんなに気に入らないのだろうか……。さすがに、他人の分まで含めた文句を私へだけ言ってくるよりも心理的負担が少ないのは望むべくところであるにはある。しかしその様子では、自分の居心地の良さを求めるあまりいずれ自らの首を絞めることになるのではないかとも、さすがに心配というかある意味では不憫にすら感じるほどだ。

     彼女とのあいだに何かがあるたびにうんざりした気分になるわけだが、だからといって職場を放棄するわけにもいかない。とはいえ一時的にせよ、普段からの打つ手なしと諦めの混じった感情をいよいよ強めつつ、さすがにも暗澹たる気分の極まりの際にはしばし事務所を離れ一人にならざるを得ない私。鏡をのぞきに洗面所へ向かうと、薄暗い照明も相まってなんともひどい顔をしている自分に対して、情けないと嘆息の混じった言葉しか浮かんでこない。
     少しだけ笑顔を作ってみようかと何気なく試みてみたところで、顔面の筋肉がひきつっているだけの滑稽な表情しか出来ないことに気づく。しばらくそのままに鏡を眺めていると、直前に歩いてきた廊下の反対あたりから呼ぶ声。よく聴いてみると声の主が例の彼女であることが分かる。
     その時は何も考えずに洗面所を後にしようとするが、去り際に思いがけず鏡が視界の端に入ることになった。こちらでは残念ながらうまく表情を作れなかったにも関わらず、あちら側は苦虫を噛み潰したかの意外に悪くない調子で口元が歪み、いやそれより目につくものとなる竦めた肩が首を窮屈そうにさせていた姿――。どうやら、無理に留められひずんでいるというより、全体が自発的に粘り腰の反発力を蓄えているとでも言いたげに、押し黙ってはいるものの着々と準備の整えられている不満が主張されているようだった。
     それでいて、鏡に映る瞳は確かに暗がりの中へ沈んでいたせいもあってか尚更、ステンレス製の流し台の光を反射して周囲から浮き上がる分だけ妙に不敵な生命力を宿していたのだった。俺はまだ完全にはやっこさんに打ちのめされていない、まだ大丈夫だと、むしろこちら側へなんとも陽性の励ましを送ってくれてさえいたのだ。
     
     ところで私の苦笑いというのを自分で想像している限りでは、如何にも実人生の重みがよりらしさの渋みとして顔に滲んでいる、60年代あたりの西部劇俳優のそれをイメージしている。
     人生に倦んでいるといったスタンスがあり、何に対してもまともに取り組もうとしないかつての英雄であった老いたガンマンが、ふとした事件をきっかけに街を守るため死地へと赴く終盤近くの場面。
     肉体は衰えたとはいえ腕に覚えが確かにあり、敵の数もそれなりのものだと予想されてはいるが勝算がないわけではない。しかし、あえて生きて帰ってこれなくとも構わないとのことを、周囲に伝える。
     死にたがりや世間に対しての無関心さは以前ほど強いものではないが、だからといって単なる照れ隠しのポーズであるというわけではない。自らの影に漆黒の杭を打ち込まれたように、生を確かに倦んでいることは事実だった。

     酒場で一人過去を回想する元英雄。単なる一時起こった気の迷いだろうと自分に言い聞かせながら、それでも軋む揺り椅子に凭せ掛けた体をむんずと起こす。手の内に持たれ口に一度近づけられた酒瓶が寸前の躊躇いからテーブルへと、出番を無くしすっかりぎこちない動きとなってしまった長年来の相棒に久方振りの油を差す。心を奮い立たせ街のために最後の戦いを迎えんとする男。
     無力からくる卑屈な無抵抗主義に何とか打ち勝とうとしている、最後の誇りを失うまいと荒野の酒場に数人の男女が集い、生きて帰って来て欲しいと伝える。
     男は何も言わずに片方の口角を心持ち引き上げ、ヤニにくすんだ歯先が一瞬見え――そんな苦笑いを私はしたいと、常に思っているのだ。




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    エッセイ(雑記)【7】私の顔~1






    (2020字)
     おそらく私の頭の中を支配している感情はネガティブなものばかりなのだ。昨日だってそうだったが、ある仕事の途中で妙に薄暗く嫌な気分になり、どうしようもなかった。
     本当のこれだからこうなのだとの原因など分かるわけがない。ただ、自身に振りかかることが様々な形を持ち、あるいは形を持たずに大なり小なりのそれは突然に襲ってくる。例えば人の意見やらただの会話、または指示であることも。時には十メートル先から密やかに聴こえてくる、噂話のような形をした何かだった。しかも無視出来ない問題としては、仮にこの身に関わらない事柄が扱われていたとしても、場合によっては同様の感じになるのだ。

     私は特に人間嫌いというわけでもない。むしろ普段は、といっても少しでも鬱気味になると駄目だが、それでも人間関係に軋轢等々を起こしそうな言動に関しては――執心するとまではいかなくとも――案外気にする質なのだ。余程我慢しがたいとの思いかどうしても口すべきの確信がない限り、大抵は人の機嫌を損ねると疑らせるまでの発言自体を控えている。もし言わなければならないほどの状況になってしまったら、やはりとりあえず適当にごまかしてさらに相応しい時があるはずだと、自分に言い聞かせるだろう。

     現在勤め先の職場には如何ともしがたい難物がいる。言い争いなどはもってのほか、議論などという生産的な対話をする姿勢が向こうには全く存在せず、こちらにはほとんど頭ごなしの態度でしかものを言ってこないのだ。
     ある時は一緒にやっていた仕事の仕方について説教をされた。その言い分を整理すると、一番の古株である自分は、携わる工程に複数の人間がいる場合は好悪で彼女が勝手にパートナーを選ぶ権利があり、また瞬間々々に有する気分の単純な快不快に伺いを立てるのを忘れてはいけない、と。自分に特に気を払えということだ。
     あるいは余分に手間がかかり面倒(であってもやらなければならない)な作業となれば、とりあえず先延ばしにする。もしくは他に忙しそうにでも立ち回っている他人へ平気で任せてしまうことをしてもいい権利がある、とでも言わんばかりでいるようだった。職場で定めたルールに従わなかったり、自分の都合のいいように規則をねじ曲げたり無視したり迷惑さえかけているわけで、しかし当人にもそういった意識は全くないほどに思慮が欠けて、というより迂闊であるわけでもない。
     発言の際には相当の頻度である種の後ろめたさがあり、周囲の人間や若手の一人である私には特に、自分の考え方や仕事のやり方に従うよう半ば強いてくるのだ。言うなれば共犯者作りの一種だ。
     彼女は、何かあるたびに私より数倍の長さと厚みがあると誇る人生を持ち出して、自分の理解では仕事というものはこうこうこうやってやればいい――といった感じで自らの人生観や仕事観について語り出し、今時の若い奴は気が回らないとか図々しいなどと必ず最後に付け加えるのだ。
     彼女の求める気の利かせ方は、ようするに自分の代わりにもっとしっかり働けということらしい。それでいて簡単だが見栄えが良い、おいしい仕事だけは自分に残して(量や回数はこちら側でいい按配にしないといけない)、時々は思い立ってよっこらせと、過ぎたほどにも大げさにこなしてみせ――彼女の年齢的には許される、と少なからず本人は信じきっている演技をして――ちゃんと仕事をしましたよとの満足感をたまには得たいのだ。
     実際には言うまでもなく、自分自身の達成感を得る、より以上に彼女が求めているのは上手い仕事の手の抜き方で、またほとんど期待出来ない罪悪感からの行動などでもない。周囲の目に対するポーズとしての面のほうが明らかに、動機としてはおおよそを占めていることは間違いない。

     様子を窺っている私を含めた人間は当初、半ば辟易半ば恐々としながら重い腰を上げる一挙一投を遠巻きに眺めている。ただしいつまでも、というわけにはいかない。見ているのを本人にバレている上で声をかけずにいると後が怖いのもあるし、過重な作業をこなしている等の演技は次第に無言への変化の過程で実際的になっていて、相手の実年齢ゆえに放っていくわけにもいかない気分にさせるのだ。
     また、彼女のことを表面的にしか知らない別の部署の人間や、時間帯によっては暇を持て余し、一見無意味な巡察程度に四方を後ろ手に歩き回っている幹部職員に見られたくないからだ。若い連中が仕事をしていないのではなどのおよそフェアでない考えを、一瞬の思いつきにしろ頭に浮かび上がらせたくないといった理由で。
     こちらが仕事を一時放り出し手を差し出す時でさえ、すわ小走りで駆けつけなかったとなれば、助けるタイミングをわざわざ遅れさせたのではと疑ってかかってきたりするくらいが、まさに彼女なのだ。挙げ句、対応が恩着せがましいと見て取れば(ほとんど被害妄想だ)途端に不機嫌になってしまい、持ち上げようとしていた荷物をひったくってしまうこともある。




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