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    小説メモ(イメージとしての習作)【1】僕、森星~2


    (2850字)
     それからは落ち着かない何時間かを過ごした。彼はどうして自分のことを知っているのか、小学校のころに交際があった人間は少なかったし、そうでなくとも何度か話をした同学年生ならば忘れるはずがない。
     相手のほうだけ一方的に知っているというのは奇妙で、少なからず中学3年生の多くの人間が抱く感覚は僕にも同様にあり、世の中のことが大体は分かっていたつもりでいて――これはもちろんただの思い上がりに過ぎないとすぐに分かり、その時だって心の片隅では疑いや不安の意識が全くないではなかったが――、つまり自分がここ数年間に付き合ってきた人間のことは大抵覚えている、どんな人間なのかそれなりに内容を理解出来、普段から関わりのある(あった)身の回りの世界をおおまかに掴んでいると、ある程度は信じていたのだった。

     僕にしてみれば一般的な人間関係というものは、自身が進んで関知していない、あるいは気づかずに相手からまるで一方的に関係を持たれるなどはありえない。たとえばそういったものがすでにあるかのよう勝手に向こうが思い込み、またはこちらは始まりの不確かさに困惑しているにも関わらず、それを敢えて僕自身も無視して関係を結ぶことを認めなければならなかったり、訳も分からないうちに相手が持っている(いた)とする関係を通告されるなど、当然あってはならないはずだった。
     正体不明の関係になんと名づけてよいのか途方にくれている間に、カタチ、色合いの掴み難さ不確かさこそが他との違いであって、まるでそこに価値があるなど半ば無茶苦茶な理屈が姿を現してきたりすれば、僕へとさらなる致命的な混乱がもたらされるに違いないだろう。
     名前さえ知らない状態では相手について考えている全てが無意味に違いないし、そんな時には常に受け身の関係になるということだ。相手が何かを言ってきたからこちらも何かを反応して返す、次も、また次もといった感じ。なんだか、嫌な気持ちになる。

     ひょっとしたら、いやこれはあまり可能性はなさそうだったが、小学6年から中学3年に掛けて、例のバランスの不均衡なだいぶ急ぎ気味の日々のせいではないかと――休む暇なく夜のあいだに人知れず、頼もしくもあり正体の知れない成長。というよりも変態に近いのかもしれないが――、それは僕が知っていた顔がいくらか硬さを帯び各部位を離れさせ、やがて身体から小学生のころの丸みを次第に失わせ始める。
     それでもまだ生意気で儚[ハカナ]く、愛おしい子供特有の乳臭さがあり、何かに守られていることをおぼろげに感じさせるものだ。時に子供を何よりも愛するそれを唯一のアイデンティティーにしているように、まだ成長途上の身体を強く抱きしめている。自らと他人の区別がつく心身の成長段階(あるいは世界理解)に至った彼らは、その身もまた抱きしめられながら中心の一つをなしていることに気がつく。
     彼らは強く庇護[ヒゴ]されている。弱く傷つきやすい者へと世界から与えられた特権的なプレゼントとして、とはいえそれの使い方を間違えた末に現実の世界で現実的な問題を様々に抱え込んでいくと、特権はやがて彼らを怪物へと変化させる萌芽[ホウガ]の苗床[ナエドコ]ともなる。混乱した思考とともにある肉の塊が弱さを隠しつつ押し殺した声に怒りを込める時、半睡[ハンスイ]に慈しまれた世界は狂気へと逆転するだろう。



     放課後、いくぶんの気の高ぶりが胸に沸き起こることがなんとなく癪[シャク]になり、反して逸る足の運びを敢えて抑えるために却って動きはぎこちなく、それでもいつも通りに階段を降りていった。多少は駆け足になっていたのかもしれない。
     一気に下まで駆け下りるつもりが下駄箱の見渡せる階段の踊り場で一旦足を止め、少しだけ息を弾ませながらその先にある玄関へと周囲からまたは自分を追い越して向かう足早な生徒たちを目にすると、何か小さな塊が胸の内で自然に息づきを始め、1分前までの眉間に皺を作りながら何を思うところのない日常に繰り返される僕の下校風景じゃないか、という気分はどこかへと消えた。少しの遠回りもせずに正門を目指した。
     いつの間にかまるで、校長室に呼ばれおそらく直々[ジキジキ]に表彰状を手渡されるんだ、そう信じて足を向かわせている生徒よろしく誇らしげな慎み深い顔をして、それでいて小っ恥[コッパ]ずかしいようなきまり悪さも混じった心境になり――予想通り彼は先に来ていた。
     随分涼しい顔をしていたが、同学年の他のクラスは(後で確認したところによると彼は隣のクラスだった)僕のクラスとほぼ同時にホームルームが終わったはず。壁を隔てた前後の教室でも別の教師の声を皮切りに、忙しそうに椅子を引いたり机を押したりあちこちで会話が始まったりと、突然盛り上がった開放からの喧騒を耳にしていたからだ。
     それなのに、走り終えた直後の荒い息遣いを整え呼吸を落ち着けている時の不自然に胸を大きく上下させる動きはなく、ほんの数分前にはあったはずの走るためのエネルギーが静まり収まっていく過程を示す、微かな余韻もまるでなかった。彼はずっと前からそこで待っていたかのよう。

     学校から一番近くにある自動販売機が、正門から50メートルばかり離れた小さな個人商店の脇に一台だけ設置されている。販売機の型は相当の旧式(はっきり言えば二[フタ]時代近くは以前)で、当時でもそこ以外で目にする機会のほとんどなくなったタイプのものだった。整備する人間も5年は来てないんじゃないかと思わせるほどに、ところどころに大小の凹みがあり、ショーケースのガラスにはいくつものヒビが入っていた。排気ガスや犬の小便で全体から特に足元にかけては致命的に汚れきって、すでに打ち捨てられ街中に放置された廃棄物――のわりには意外に綺麗で原型は一応留めている程度――にさえ見えなくもない。
     ただそんな見た目と扱いのわりには何故か、件[クダン]の自動販売機では売られている品目は非常に豊富で最新のラインナップが常に揃っていたのだ。何よりも本体の機能そのものには何の問題もなく、というべきかむしろ優秀過ぎるくらいに、夏は冷たく(『少々冷え過ぎている』と、歯科検診の際に学校指定の比較的温和な歯科医をして、あからさまに顔をしかめるまでにひどい状態の虫歯が長年に亘[ワタ]って放置されていた末に発覚した、小学校からの友人である同級生の言葉を借りれば)冬は充分に凍えた体を内部から温めると約束されていたことは、少数の中学生にしか見向きもされないポンコツの、いわば残された最後の誇りに違いなかった。
     朝夕[アサユウ]に目の前を通る際に確認した限りでは、在学中に自動販売機内のジュースが切れていることは一度も、一種類もなかった。そのことまで観察していたのはきっと僕だけだろう。
     実にどうでもよい話なのだけれど、狭い世界の中で生きている中学生(特に僕)にとってはそういった発見がとても貴重なものであり、他人(特に同級生)が知らないとなれば尚更だったりするのだ。




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