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    日記2004【4】輪郭が風化する。残されたものは~4(了)






    (2517字)
     何よりも相手は色々な理由を並べ ――平穏な生活を営む一人間に対しては、過去の罪過を何とかしてまで突き止めていくのが(外圧・内圧を問わず)難しいのも当然ではあり――、彼の言う贖罪をどうあっても頑として撥ね付けるだろう。
     それら態度は、第三者の目から見れば仕方がないのではとも思わざるを得ない。もっと根本的なレベルで言うと、やはりそれを認めてしまえば、現在の自分を否定することになりかねない感覚を危惧したと想像するのは容易い。 
     理屈はおろか感情すらも伝わらない歯がゆさはO氏自身にあったとして、にしても実はかなりの程度で目の前の反応が当然なのだろうと、あらかじめ察して(諦めて)いた部分があったのかもしれない。
     そこで彼は「天罰」という言葉を持ち出してきたわけだが、かなり場違いな感じと言ったらいいか、口にした自身にすら、半ば自棄になって口をついて出てしまった瞬間のちに、後悔か羞恥かせいぜいバツの悪さを抱かせはしなかったか。

     事件が事件として意味を持つのは、一定の規則と合意によって秩序が定められ、多数の人間によって求められる姿が平時であると仮定している状態に対して、それを乱すことやまたは否定したときである。
     しかし今回は戦争という異常な状況の中で起こったとされる事件であり、となると変化が乏しくとも平穏安寧が最大の価値であるとする主張で形成された秩序の意味と、それが保たれている日常とは異なる規則と論理が戦争に存在することは、無視して論じたりは出来ない。確かに戦場での個々人の行為は軍規や戦争法によって厳しく戒められている一方、正式な手段を用いれば合法的に殺人が認められている状況は、常に人間性の逸脱を孕んでいると言っていいのだ。
     較べれば、憎しみや金銭に絡む個人の利害による殺人はある意味では健全ですらあるのだ。普段生命の尊厳や個人の権利の尊重をひたすら主張し、いずれ全地球人類に適用されるべき価値があると理念に掲げているはずの国家が一転、突然掌を返したように殺人を肯定(推奨)する。
     今回の事件(?)は、後数日で餓死するであろう現実を前にし人肉を口にしたという話だ。
     戦況の絶望感は生きる気力を失わせるほどであり、それでもやはり生存への欲求といったものはかなり強く、空腹になるにつれ増大する飢餓感は、あるいは戦場で生き残ることだけを正義とする一兵卒の倫理ではなく、またのみならず、ただ生きたいと願い行動する人間の最大最後に表れる欲求ではないだろうか。そう考えると、例の事件(?)を起こした当人を責められるのか、そもそもそれを事件と呼べるのだろうかという疑問に突き当たるのだ。
     
     ミッドウェイ海戦以降急速に制海権の範囲を狭め、補給路を立たれた南方戦線に向けて次々と送り込まれた兵士たちは、劣勢を告げられずにたどり着いた戦地で惨状を確認することとなった。
     銃弾で身体を貫かれ地雷で吹き飛ばされることは苦痛であっただろうが、一瞬で死んでしまうならばまだマシだったのかもしれない。
     南方戦線では物資の不足は食料どころか薬品にもおよび、赤痢やマラリア等の伝染病に長期間にわたって苦しめられた末に、なんの手も打てずに衰弱して亡くなっていった兵士が相当な数に上るといわれている。運よく病気に罹らなかった兵士、何とか病状を押さえ込み部隊に随伴する半死半生の敗残兵、現場では士官すらも空腹にあえぎ一兵卒ともなれば尚更であったと思われる。

     人間の掌を縦半分に切断してそれを口にするとき、結果的に元の形が分かれば分かるほど当然食べづらい。まずは人間の肉を口にすることに対して口腔や消化器内部からの拒絶感が、そして消化されるに従い自ら全体(身体・心・存在)が穢れへと苛まれる感覚があり、よしんば現在身体の一部になり命を繋いでいるものだとしても、やはり〈呪い〉の発生源の一つだといえるかもしれない。
     人間として「人間の倫理に背き、また純粋に沿い過ぎた行為」よって、身体性の保持の過程から統合に至る観念的なレベルの――O氏の場合あるいは越えた感覚で――異物・違和感、一種強烈な穢れの意識が引き起こされているのではないか。

     いつまでも打ち捨てすることを許さず(許されず)囚われた想いに従うが正しいと信じ、そうせざるを得なくなった彼はさらに自身に追い討ちをかけるように同じ言葉を発する。どこまでも自分を強迫・服従させ続けんとする、それが正に〈呪い〉なのだ。
     言葉で言い表せない感情は、元上官(病身の戦友とは別に訪ねた)との面会の後日にその長男を拳銃で撃ってしまうという、悲しき凶行の形で表わされたのだった。
     もはや、彼らの戦時中の行為を――特に組織的に行われたわけでない、個人的生命における最後に発せられた要請の末の蛮行であるとすれば――断罪することの不可能性について考えを及ばさなければならないのかもしれない。
     そこで彼にはいわば苦し紛れというかある意味のすがりつきとして、「天罰」という形で自らも戦友ももろともの断罪に最後の望みを託す以外、選択肢は残されていなかったのではないだろうか? 
     しかし「天罰」が覿面[テキメン]に彼ら(O氏はおそらく、自分の罪はもっとさらに重いと考えていたから)を罰してはくれない以上、ああいった全国行脚[アンギャ]のようなことをさせる自身の暗流とも表現出来る囚われの極まりに生きるしかなかった。結局は〈呪い〉からの解放を願い救いの求めすらも許されない、無間[ムゲン]地獄の絶望にしか居場所を見出だせずにいる姿、はっきりとした「天罰」の訪れをひたすらに待ちわびるむなしい姿だけがある、と感じてしまうのだ。

     戦場から数十年経て、法は変わり人心はそれを状況として認めざるを得ないか目を背けた。戦争犯罪人として最終的に総括されなかった者、特に一般兵、現代ではそんな罪無しの罪を裁く方法はない。
     彼が求める限りには自ら明確に残された輪郭も、ただ外側の人々にとっては色褪せた時代が後退する速度に付随して風化する。その中身(極限状況下における人間の「異常」心理)に理解の試みを全く止めた以降の時代では、元から存在していないとさえ見做されるかあるいは永久に棚上げされた罪だからなのだ。




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