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    エッセイ(物語構成)【5】人生の仕事始めに~3






    (1877字)
     飲食店の仕事には、多くの場合賄いがつくという役得がある。産まれて初めて働いた僕は当然そんなことは知らなかったので、毎回の仕事終わりに食事が提供されるシステムには随分と感激したのだった。
     なにしろ、客が金を払って食べに来ているものをこちらは只で選び放題なのだから。
     どんなメニューにしてもいいし、普段の店頭では扱っていない超大盛を注文してもかまわない。基本的にメイン料理は厨房の中にいる人間に作ってもらうが、他の作り置きしてある小皿メニューやご飯の盛りなどはこちらの自由なのだ。バイトをしていた一年数ヶ月で5キロも太ってしまったのは、致し方がないことだったと言いたい。そう、無料の誘惑には勝てなかった。

     バイトにも慣れてきた頃、D村が「○○さ、たくさん喰うのはいいけどひとこと言えってさ。副店長が「あの子は遠慮がないね」って言ってたぞ」と、教えてくれたのだった。文句を言っていた副店長の真似をしながら笑って見せる彼に対し、こちらはそれどころではない冷や汗ものの心境。
     僕は次の仕事の日には、今日はこれで上がりますのですいませんが肉野菜味噌炒め定食(これが恐ろしく美味い!!)をお願い出来ますかと頼み、さらに許可をとってからご飯をよそったのだ。
    「遠慮がない」と口にしていた彼は、こちらの顔を一瞬だけ確認すると「別に、いちいち確認しなくてもいいから好きにしなよ」と言いつつも、なんとなく気が晴れたように目元の緩みは穏やかなものだった。その日いつもより肉が多い定食を用意してくれたのは、ちゃんと一言断ってご飯を盛るとのルールを学習した、謙虚に注意を受け止めたらしきバイト高校生に対するご褒美、だったということにしておこう。

     ふと思い出したのだが「嫌な」出来事が一度だけあった。バイト先の店はフランチャイズ店だったので当然オーナーが存在している。時々本人は顔を見せ責任者と雑談をして帰るだけだから気にもしなかったが、ある日夕食時の一時間少し前に、事前の予告どころか一切そういったことを触れた話もなく、奥さんが子供を連れ二人で突然現れたのだ。
     僕は普段以上の接客を心がけた。コップを置くとき下に指を半分はさみ音を立てないようにと、以前教わったやり方をさらなる馬鹿丁寧さでやることにした。しかし緊張していたのだろう。テーブルに軽く底が当たり音を立ててしまい、二人が帰るまでの一時間ほどは客も全くいない静かな店内だったせいもあり、なおさら少し気まずい雰囲気を感じながらの食器の上げ下げとなったのだ。
     二人が店に来てから雑談が終わり席を立つまでのあいだ、結局オーナは姿を表さず、コップのことについては何も言われずいた。やはり考え過ぎかもしれないと、夫人と息子が帰った後は気にもせずにいたところ、それから数日後またもD村に忠告を受けることとなった。
    「なんか、ちょっとやばい感じになってるみたいだぜ。オーナーの奥さんが、お前をクビにしたほうがいいんじゃないかって言ってたんだって。なんかさ、子供に結構言われたらしいんだってな。コップとか食器の運び方とか置き方が雑だってさ。細かいこと気にする連中だなぁ」
    「なんだよそれ、普通にやってたのにさ。いや、俺は結構丁寧にやってるよ。文句を言われるような適当なことしてないけどな」
    「あぁあのさ、店長が○○は普通に働いているからクビにする必要はないって言ってたらしいよ」

     かなり腹が立った。オーナーの息子は小学校高学年かせいぜい中学一年生くらいの小僧だったのだ。そんな子どもに仕事を判断される筋合いはないわ。コップ運びが簡単そうに見えてどれほどに奥深さのある作業であるか……。ボンボンのドラ息子が調子に乗り腐っておってからに、バイトひとつ探すのがどれだけ大変かチミには分かるんかい?!
     最初の反応、気分は確かにこうだった。ただ子どもというものは、大人(少し年上でも)へ対し相当に冷徹、あるいは残酷なまでの推し測りや値踏みをみたいなことをする時がある。彼らはそれぞれの人間が持っている、器の大きさや質をほとんど本能的に察知しているのかもしれないと、すぐにでも感じさせられるようになっていった。
     僕は友人にあれこれ言っている当の最中[サナカ]にも、自分の核の核にある、意識を逸らし薄目でしか見ていなかった本当に本当のどうしようもないどうしようもなさを、子どもの目で見透かされた気分になっていったのだった。努力でどうとかたまたま学校の成績がちょっと良かったとかは全く関係なく、生まれつきの問題だから絶対変えようもない「駄目」を。
     以降二度と、経営者本人は別にしてもその家族に会うことはなく、問題も自然と収束していったので、ある意味では不幸中の幸いだった。




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