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    エッセイ(物語構成)【5】人生の仕事始めに~4(了)






    (2032字)
     しっかりとした傷による痛みとは違う、突然に知らしめさせられた不吉な病名の息苦しさ。当初胸へと広がっていった染みのようなそれは、僕のなかで時間の経過とともに次第に薄まっていった。日々、平凡で順調な毎日を重ねていくにつれて、あまり意識するまでは強く感じられなくなっていった。

     働き始めて一年後くらいだったか、女子大生風の女の子二人が新たにバイトとして入ってきたのだった。一人は黒髪で落ち着いた雰囲気をした長身の美人、もう一人は少し茶色がかったショートカット、こちらは対照的に頬が少しふっくらとした可愛らしい顔で、身体も小さいせいか少し幼くも見える。早速数日のうち彼からどっちが好みかなどと、体裁は質問実際には問い詰めを受け、どちらもまあまあ魅力的ではないかとの無難な応えでとりあえず茶を濁すことにした。
     ただ、仕事を教える機会があったから本当は茶髪の子のほうがより親しみが持てる、などということは冷やかされるので彼には言わなかったのは、高校生男子特有の照れと自意識なのだ。

     あるとき、休みの日に店から近いJRの駅前にでも待ち合わせをして、バイト先の四人でボーリングに行こうと突然の企画が持ち上がった。
     ショートカットの彼女はボールを両手で抱えるようにしながらちょこちょこと不器用な走り方から、ほんの先に落として転がす少し変な投げ方。そのせいもあってかは分からないが、七十点から九十点台のあいだの成績ばかりだった。まあ点数が伸びないのはこちらも似たり寄ったりなので楽しければいいのだ。あまり経験がないとレーンに対してどうやって助走をつけるか分からないので、愛嬌があってそれはそれでいいじゃないか、とも。
     次の日D村と前日の遊び全体も含め色々と話していた際、彼女についての話題から思い出したのか、走り方を少しからかうかのように笑いながら話すのだった。ちょっとその様子が気になったのと、僕の多少の気がバレてしまったかと思い、「お前はあっちの子と付き合えよ。お前のこと、高校生のわりにしっかりしてるし仕事の面でも頼りになるとか言ってたぞ」などと黒髪の女子大生と彼をくっつけてしまおうと企む演技をしてみせた。
     あえて大げさに茶化したこちらの発言を受けては少しヘドモドし出し、普段の活発で積極的な感じからは想像のつかない純情さを露呈、話題は逆転、立場も攻勢に転じたのだった。
     結局僕が知る限りでは、それ以上の深い交流もバイト仲間という関係からの進展もなかった。

     互いがいつ店を辞めたのかはっきり憶えていない。おそらく彼の部活が忙しくなり、こちらも勉強にどうしても集中しないといけない時期が重なったのではと推測している。どちらが先に店を去ることになったのか順序は定かではないが、ともあれ仕事は無難にこなしていき、中の人間とはまあまあ上手くやっていたのだ。友人は年上の人間との付き合いが上手くオーナーや店長に可愛がられていて、つまりその辺に関しては問題はなかったろう。
     以前に軽い小言を口にしていた副店長とも、それ以降記憶している限りでは良好な関係であったはずなのだ。もちろん他人と一つの場所で働いている以上、小さな軋轢やすれ違いは完全には避けられないものだから、多少のことはあったかもしれないが。
     ある程度のマトモな理由があり、しっかりと手続きを踏んで迷惑をかけないように最後を迎えたと思う。一年以上世話になっていたので、立つ鳥である僕が跡を濁し過ぎてしまってはさすがに申し訳ないし、あり得ないと信じてもいるのだ。
     以降オーナーからバイトの進退に関しての話が出ることもなく、上にも書いたように奥さんや息子が出張[デバ]ってくることもなかった。少なくともそちらの点では、店長やらあるいは副店長も壁になってくれていたのかもしれないと、今では思う。最後まで一応だけれど全うさせてくれた。

     あれらの経験が、現在の自身にどう活きているかは分からない。ただ、人生の仕事始めにしては我ながら上出来ではないかと、総合的最終的に評価している。確かに胸を探れば小さな影みたいにある、現在にまで続く正体のない不安感や所在ない気分、自分自身を頼りなくする感覚はあった。であっても、一方では追いつかなさをあえて押し込め、空回りや失敗を繰り返しては徐々に学んだのだ。僕なりの拙い仕方でもトラブルに対処しようとし、嫌なことから逃げずに耐え多少は乗り越えもしたからだ。
     不甲斐ない自分の今の状態を見るにつけ、あのときの若い身でも何とか頑張れたんだと奮起の材料の一つにでもなれば――。そしてそれらが良い仲間や上司に巡り会えてこそだった。最良の形などというものは分からない。あれらは「僕にとって」の出発の地点であり、美化や多過ぎる含み込みを理解した上でもやはりなお、現在このときにでさえ振り返れば目標とする、働く姿のひとつでもあるのだ。
     だから自身に対してだけは声を大に、いや、少しだけ潜めて遠慮して言おうか。……全く意味のあるアルバイト時代だったと。




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