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    タイ旅行、後日まとめ記【7月2日】~14 修正版







    (2556字)
    【7月4日】記  7月4日です。現在ハジャイ駅近くの大衆食堂で筆を執っています。さて、だいぶご無沙汰でした。日々の細かな場面や些細な出来事に伴う感情とをいちいち紙に記すことは難しいですが、そういった感情の中にもやはり私自身が現れているものです。一度失われた記憶の断片はようやく繋ぎ止めていた紙よりも軽く、どこまでも風に飛ばされるでしょう。
     二日三日と経ち、ある出来事の中の細かな描写は削ぎ落とされ、そのときに感じていた思いには当たり障りの無い形のみが残される。経験した現実は整理棚に収まりやすく姿を変える。動きのあるものは押さえ込まれてしまい、角の飛び出した部分は適度な丸みを持たせるために切り落とされるということです。
     数ヶ月数年を経た末に整理された目録達は記憶の小箱に収まっています。いつか、あの瞬間を再び引き出そうとするとき、干からびた目録はかって誰もがそこでは同程度の経験をし、またいくつかの類型化した中からおざなりに選ばされた感情があった、ということを教えてくれるだけです。仮にそこから受け取る正体の知れない感覚の断片があったとしても、時間の孕んだ優しさと予定調和を重んじる懐かしみの中に抱え込まれ、やがて消え去ってしまう。
     
     あの日雨が、そう突然私たちの訪問を待っていたかのタイミングで降り出しました。以降は前に述べたとおりですので、さらに店を出た後のことを追っていきましょう。
     一時的に止んでいた雨のあいだに、何とか宿を探そうと周囲に注意深く目配せをしていたのです。彼とはいつも以上の協力をし、目を皿のようにしながらタイムリミットを迎える前に探し出さなければならないと、それこそ随分と必死になって。
     足早に通る前にいちいち左右に視線を向け、店の入り口を確認し同時に顔を上げ『HOTEL』の文字が無いか、看板を見落とさないように注意深く探していました。ですが、なかなか適当な宿は見つからずに二人は結局目抜き通りの端近くにまで迫っていました。ここの通りを過ぎてしまえばさらに店の数は減り、見つけることも困難になるのではと私は憔悴しかけていたのです。
     雨が止んでいる短い合間を見計らって店を出るかと決めたときも、手っ取り早くベッドと屋根を確保出来るならばそれで構わないと考えていました。はっきり言えば選り好みなど出来ませんし、いつも安宿に泊まっているので劣悪な環境には慣れていましたが、逆に多少値が張るホテルに泊まることになっても一泊だけなら仕方が無いとも……。ただ、ある意味ではやはり私も貧乏生活に慣れ過ぎたせいか、少しばかり金がもったいないかもしれないと逡巡しつつ、それでも今回はしょうがないと腹を括っていたのです。
     しかし、私がやむを得ないだろうと発言しても彼は首を縦には振らないでしょう。だったら野宿をと言い出すことも十分ありえる男なのです。その日のうちは雨が再び降る心配もありましたから野宿は現実的ではありませんが、彼が納得するくらいの宿を探し出すことはかなり難しいのではないかといった、嫌な予感が頭の中を駆け巡りました。食堂を出た時点で、すでに宵闇が空を覆い始めるまでの時間となっていたのです。

     あてを無くした気持ちでキョロキョロと周囲を見回していた私の肩を、突然彼が掴んだのでした。視線の向けられている先を辿ってみると、そこには幅五十センチ狭くボロい木製の階段があり、どうやら登った先の薄暗闇はホテルの二階にまでつながっている? 通りを探している最中も、「奴は本当にホテルを探しているのだろうか」と訝りたくなるくらいにほとんど真っ直ぐを向いて歩いていたようにしか見えなかったのです。
     ところが彼は、自分達(自分)にふさわしいと思われるボロ宿を見事発見していた。それはただの民家の裏口か、集合住宅の玄関につながる階段の造りにしか見えず、だからというわけではありませんが、情けないことに私は見落としていたのでしょう。相方が持つ安宿探しへの執念と嗅覚は本当に見上げたものだと言わざるを得ません。
     
     階段を昇ると意外に広い空間があり、中央には受付のカウンターがありました。綺麗に整理されているのではなく、元々極端に物が少ないのかもと感じさせるような殺風景な見た目と言ってもいいでしょう。今までの安宿は大体受付の周囲は宿帳やら地図やらペンやら、それにつり銭用の小銭が少々転がり、主人の食べかけの丼などが客の目も気にせずに置かれていたものでした。
     目の前のカウンターには空のコーヒーカップと小さなメモ帳が置かれているだけ。一人の中年男が、壁のやや高い位置に据え付けた棚に載せてある白黒テレビに顔を傾け、ほとんど無音かと思われるほど非常に小さな音量で古い怪奇映画を見ているという、なんとも鬱々とした様子。店の主人などは非常に無口無愛想な男で、なんとなく話しかけることが憚られてしまうほどです。
     なんだか陰気な雰囲気のする宿だと、こちらに関心を示さない主人を無視して店を出る相談しようかと考えていたところ、彼は「ここでいいよ」とだけあっさり言い放ったのでした。何を躊躇うでもなしに、言い終わるが早いかそっぽを向く主人に対して片言の英語で早速話しかける、これまた神経の図太さ。こうなっては今更階段を降りるわけにはいきません。それに階段の下からは石畳が連続して激しく打ちつけられる音が聞こえてくるのです。熱帯特有の気まぐれな雨が小休止を終え、再び降りだしたようでした。
     
     狭い上に冷房の強烈に効いた乗り合いバスに長時間揺られ、ついたばかりの私たちは行くあても無いまま、適当な場所で下ろされやがて強烈な雨に打たれたのです。普段は乗り物酔い(船などはなおのこと!!)をしやすい体質なのですがその日は一向に気配も無く、乗り合いバスを載せた大型船のデッキが今日は唯一落ち着ける場所だったというのは、なんとも皮肉な話と言えるでしょうか。
     実際、二人とも疲れきっていたのです。身体もなんとなくべたついていますし、すでに服は乾きかけてるとはいっても、強い雨に降られたことで芯に伝わる冷えがありました。床をミシミシと鳴らしながら、多少重い足取りで彼はシャワーを浴びに行きました。私はどうするか一瞬迷いはしたものの、結局ベッドに潜り込み、その夜はシャワーから帰ってきた彼が部屋のドアを空ける音を耳にしませんでした。




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