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    エッセイ(物語構成)【6】幸せ一粒、二粒~2(了)





    (1760字)
     N海の家は自宅から近いせいもあってか、役員だった親同士は地域の集まりで顔を合わせることが多く、幼い時分には彼女も参加していたであろう会合に僕は何度も連れて行かれていたのだった。加えて小学校から近所の同じ公立校に通ってはいたので、自分にとっては同年齢の顔見知りの少女という感覚はあった。ただ、最近の物語メディアでしばしば取り上げられるような、好意的なイメージがかなり優先したいわゆる幼馴染とは違うような気はする。
     
     中学校卒業の日、友人のN上がR川さんの写真をN海から受け取ったとの話を聞いた。式の終わった後、クラスで撮っている仲の良い友達同士のものであったり、感極まった女生徒と抱き合っている場面だったり。目を赤くし少しうつむいた彼女はピンクのハンカチで涙を拭っていた。
     その姿は何よりも清廉で、健気、柔らかな雰囲気の中に力強い美しさを秘め……。本当にこの学校生活を楽しんでいたのだろうし、友達も当然たくさんいたのだ。全力で真っ直ぐ、多分、悔いもないような毎日を送っていたのだと思う。僕とは全然違う人生だけど、それでも、同級生だった。数年を同じ教室で過ごしたのだ。同じ空気を吸い同じ黒板に向かい、正面を迷いなく見据えられた瞳の彼女、常にその横顔を見つめることしか出来なかったけれど。
     互いの家から歩いて数分の距離にある大きな交差点の近くで、N海が手渡してくれた封筒に入った写真。感謝を述べると封のシールをゆっくりと丁寧に剥がし、中身を確認させてもらった。惜しむように再度その肖像に視線を落とすと、目元を押さえる主役の脇の方に、彼女も手を前に合わせちょこんと立っていることにふと気がつく。男子が知らない、女子だけの大切な関係がある。二人は友達だったのだろう。
     
     心持ち肩をすぼめて伏し目がちに、そこには決意の強さ、揺らぎ、手探りに一歩先を踏み出そうとする者が持つ未来への不安といった、様々な思いの滲んだ瞳があった。こちらをただじっと見つめる、何かを伝えようとしているかにも写る様子を見ていると、次第にその感情がこちらにも沁み透る。彼女はいつも強かったのだ。そして、ずっと弱かった。
     切り取られた永遠の一瞬――僕は彼女たちの美しい姿を収めた写真を封筒に収めると、再び目の前の女友達に礼を告げた。
     なんて言っていいか分からないけど、ありがとう。なあ、これからはお互いに別々になるけど頑張ろうな。……まったく、感謝しなさいよ。○○がR川さんのことあれなのは、なんとなく知ってたけど。いや、なんていうか、まあ、それはそうなんだけど、N上にこのことを聞いたからさ。俺もやっぱり欲しい気がして。うん、N上も、……だったね。あのさ焼き増し料金払うから、お前の家に送ればいいかな? いいよ、ね、記念なんだから、そんなこと。みんなでカンパ集めてたくさん作ろうっていってたから、特にあの子の分は多めにね。うんうん、競争率高いからねぇ。そうか、あのさ。……なあに? ――元気でな。うん、そっちも。
     
     卒業以降彼女たち二人には会っていない。N上は二十歳過ぎまで麻雀をしたりカラオケなどに行ってよく遊んだものだったが、I畑は街中で時々見かけるくらいだった。
     時間は過ぎる。残酷に容赦無く、何もかも一緒くたに押し流すこと遠慮無く。時として胸に迫った想いさえ忘却の彼方と薄れ、この手に掴むことの出来ない記憶の蜃気楼と消え去る。
     
     最近になって再び、忘れられたはずの会話がひとつ過去の場面を伴って色づく。友達のほとんどいなかった僕にとっては、子供の頃に優しくしてくれた数少ない同級生だった。
     
     少しばかりぎこちなく、簡単に何事もなかった地点には戻れない。
     そんな時相手は、おかしな雰囲気を作ってしまって申し訳なかったとでもいうような対応をしてくることがある。
     顔を少し逸らしながら二人で乾いた笑いからいつもの調子へ、その最中にちょっとこちらも悪いことをしてしまったと、思い上がりだと分かってはいてもつい居た堪れない気にもなる。向こうがあまり出したくない、出すべきではない(と、ある種の女の子は決めつけている。これは似た立場の男にも当てはまるか)表情として務めているのに、上手く付き合えなかった。フェアではない、いや、フェアとは違う何か、か……。

     口にするほの甘い一粒、そして胸にもう一粒。




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