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    エッセイ(雑記)【7】私の顔~1






    (2020字)
     おそらく私の頭の中を支配している感情はネガティブなものばかりなのだ。昨日だってそうだったが、ある仕事の途中で妙に薄暗く嫌な気分になり、どうしようもなかった。
     本当のこれだからこうなのだとの原因など分かるわけがない。ただ、自身に振りかかることが様々な形を持ち、あるいは形を持たずに大なり小なりのそれは突然に襲ってくる。例えば人の意見やらただの会話、または指示であることも。時には十メートル先から密やかに聴こえてくる、噂話のような形をした何かだった。しかも無視出来ない問題としては、仮にこの身に関わらない事柄が扱われていたとしても、場合によっては同様の感じになるのだ。

     私は特に人間嫌いというわけでもない。むしろ普段は、といっても少しでも鬱気味になると駄目だが、それでも人間関係に軋轢等々を起こしそうな言動に関しては――執心するとまではいかなくとも――案外気にする質なのだ。余程我慢しがたいとの思いかどうしても口すべきの確信がない限り、大抵は人の機嫌を損ねると疑らせるまでの発言自体を控えている。もし言わなければならないほどの状況になってしまったら、やはりとりあえず適当にごまかしてさらに相応しい時があるはずだと、自分に言い聞かせるだろう。

     現在勤め先の職場には如何ともしがたい難物がいる。言い争いなどはもってのほか、議論などという生産的な対話をする姿勢が向こうには全く存在せず、こちらにはほとんど頭ごなしの態度でしかものを言ってこないのだ。
     ある時は一緒にやっていた仕事の仕方について説教をされた。その言い分を整理すると、一番の古株である自分は、携わる工程に複数の人間がいる場合は好悪で彼女が勝手にパートナーを選ぶ権利があり、また瞬間々々に有する気分の単純な快不快に伺いを立てるのを忘れてはいけない、と。自分に特に気を払えということだ。
     あるいは余分に手間がかかり面倒(であってもやらなければならない)な作業となれば、とりあえず先延ばしにする。もしくは他に忙しそうにでも立ち回っている他人へ平気で任せてしまうことをしてもいい権利がある、とでも言わんばかりでいるようだった。職場で定めたルールに従わなかったり、自分の都合のいいように規則をねじ曲げたり無視したり迷惑さえかけているわけで、しかし当人にもそういった意識は全くないほどに思慮が欠けて、というより迂闊であるわけでもない。
     発言の際には相当の頻度である種の後ろめたさがあり、周囲の人間や若手の一人である私には特に、自分の考え方や仕事のやり方に従うよう半ば強いてくるのだ。言うなれば共犯者作りの一種だ。
     彼女は、何かあるたびに私より数倍の長さと厚みがあると誇る人生を持ち出して、自分の理解では仕事というものはこうこうこうやってやればいい――といった感じで自らの人生観や仕事観について語り出し、今時の若い奴は気が回らないとか図々しいなどと必ず最後に付け加えるのだ。
     彼女の求める気の利かせ方は、ようするに自分の代わりにもっとしっかり働けということらしい。それでいて簡単だが見栄えが良い、おいしい仕事だけは自分に残して(量や回数はこちら側でいい按配にしないといけない)、時々は思い立ってよっこらせと、過ぎたほどにも大げさにこなしてみせ――彼女の年齢的には許される、と少なからず本人は信じきっている演技をして――ちゃんと仕事をしましたよとの満足感をたまには得たいのだ。
     実際には言うまでもなく、自分自身の達成感を得る、より以上に彼女が求めているのは上手い仕事の手の抜き方で、またほとんど期待出来ない罪悪感からの行動などでもない。周囲の目に対するポーズとしての面のほうが明らかに、動機としてはおおよそを占めていることは間違いない。

     様子を窺っている私を含めた人間は当初、半ば辟易半ば恐々としながら重い腰を上げる一挙一投を遠巻きに眺めている。ただしいつまでも、というわけにはいかない。見ているのを本人にバレている上で声をかけずにいると後が怖いのもあるし、過重な作業をこなしている等の演技は次第に無言への変化の過程で実際的になっていて、相手の実年齢ゆえに放っていくわけにもいかない気分にさせるのだ。
     また、彼女のことを表面的にしか知らない別の部署の人間や、時間帯によっては暇を持て余し、一見無意味な巡察程度に四方を後ろ手に歩き回っている幹部職員に見られたくないからだ。若い連中が仕事をしていないのではなどのおよそフェアでない考えを、一瞬の思いつきにしろ頭に浮かび上がらせたくないといった理由で。
     こちらが仕事を一時放り出し手を差し出す時でさえ、すわ小走りで駆けつけなかったとなれば、助けるタイミングをわざわざ遅れさせたのではと疑ってかかってきたりするくらいが、まさに彼女なのだ。挙げ句、対応が恩着せがましいと見て取れば(ほとんど被害妄想だ)途端に不機嫌になってしまい、持ち上げようとしていた荷物をひったくってしまうこともある。




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