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    エッセイ(雑記)【7】私の顔~2(了)





    (1848字)
     よく、その人の口癖で『いやらしい』という言葉を聞いた。たまには口うるさく嫉妬深い彼女とは違う他の立場にいるまともな人間とでも、色々仕事の話をすることがある。あまり込みいっていない、直接回答を求め合わない程度の話題としてだ。
     こちらが求められるままに何かを主張した際、まともではない側の人間(つまり難物の彼女)がたまたま同じ場に居合せていたりなどすれば、何を思ったのか、一瞥だけしてから吐き捨てるように、それでいてじんわりと身にしみる小声で『いやらしい』。今度は寸前まで仕事の話をしていたかの相手が部屋からいなくなった後、わずか数秒前に扉から出ていったばかりの背に向けられる『いやらしい』である。
     全く何がそんなに気に入らないのだろうか……。さすがに、他人の分まで含めた文句を私へだけ言ってくるよりも心理的負担が少ないのは望むべくところであるにはある。しかしその様子では、自分の居心地の良さを求めるあまりいずれ自らの首を絞めることになるのではないかとも、さすがに心配というかある意味では不憫にすら感じるほどだ。

     彼女とのあいだに何かがあるたびにうんざりした気分になるわけだが、だからといって職場を放棄するわけにもいかない。とはいえ一時的にせよ、普段からの打つ手なしと諦めの混じった感情をいよいよ強めつつ、さすがにも暗澹たる気分の極まりの際にはしばし事務所を離れ一人にならざるを得ない私。鏡をのぞきに洗面所へ向かうと、薄暗い照明も相まってなんともひどい顔をしている自分に対して、情けないと嘆息の混じった言葉しか浮かんでこない。
     少しだけ笑顔を作ってみようかと何気なく試みてみたところで、顔面の筋肉がひきつっているだけの滑稽な表情しか出来ないことに気づく。しばらくそのままに鏡を眺めていると、直前に歩いてきた廊下の反対あたりから呼ぶ声。よく聴いてみると声の主が例の彼女であることが分かる。
     その時は何も考えずに洗面所を後にしようとするが、去り際に思いがけず鏡が視界の端に入ることになった。こちらでは残念ながらうまく表情を作れなかったにも関わらず、あちら側は苦虫を噛み潰したかの意外に悪くない調子で口元が歪み、いやそれより目につくものとなる竦めた肩が首を窮屈そうにさせていた姿――。どうやら、無理に留められひずんでいるというより、全体が自発的に粘り腰の反発力を蓄えているとでも言いたげに、押し黙ってはいるものの着々と準備の整えられている不満が主張されているようだった。
     それでいて、鏡に映る瞳は確かに暗がりの中へ沈んでいたせいもあってか尚更、ステンレス製の流し台の光を反射して周囲から浮き上がる分だけ妙に不敵な生命力を宿していたのだった。俺はまだ完全にはやっこさんに打ちのめされていない、まだ大丈夫だと、むしろこちら側へなんとも陽性の励ましを送ってくれてさえいたのだ。
     
     ところで私の苦笑いというのを自分で想像している限りでは、如何にも実人生の重みがよりらしさの渋みとして顔に滲んでいる、60年代あたりの西部劇俳優のそれをイメージしている。
     人生に倦んでいるといったスタンスがあり、何に対してもまともに取り組もうとしないかつての英雄であった老いたガンマンが、ふとした事件をきっかけに街を守るため死地へと赴く終盤近くの場面。
     肉体は衰えたとはいえ腕に覚えが確かにあり、敵の数もそれなりのものだと予想されてはいるが勝算がないわけではない。しかし、あえて生きて帰ってこれなくとも構わないとのことを、周囲に伝える。
     死にたがりや世間に対しての無関心さは以前ほど強いものではないが、だからといって単なる照れ隠しのポーズであるというわけではない。自らの影に漆黒の杭を打ち込まれたように、生を確かに倦んでいることは事実だった。

     酒場で一人過去を回想する元英雄。単なる一時起こった気の迷いだろうと自分に言い聞かせながら、それでも軋む揺り椅子に凭せ掛けた体をむんずと起こす。手の内に持たれ口に一度近づけられた酒瓶が寸前の躊躇いからテーブルへと、出番を無くしすっかりぎこちない動きとなってしまった長年来の相棒に久方振りの油を差す。心を奮い立たせ街のために最後の戦いを迎えんとする男。
     無力からくる卑屈な無抵抗主義に何とか打ち勝とうとしている、最後の誇りを失うまいと荒野の酒場に数人の男女が集い、生きて帰って来て欲しいと伝える。
     男は何も言わずに片方の口角を心持ち引き上げ、ヤニにくすんだ歯先が一瞬見え――そんな苦笑いを私はしたいと、常に思っているのだ。




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