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    エッセイ(雑記)【10】昔見た女に再び出会う~2(了)






    (1792字)
     相手は当然忘れてしまって(というよりも記憶しているはずがない)いることは言うまでもないだろうが、当時通っていた学校の通学路か、近くの商店街だったのかはっきりとは憶えていなくとも、であっても初対面の時の印象だけは強く残っている。
     その時は何かに恥じ入るような、または恐れる気持ちが強かった。同時に小学生の男子にありがちな反応、しかし僕にとっては珍しいといっていい、異性に対して不自然に映るくらい過剰な反発感を持ち、あえて遠ざけようとする心理もあった。ただ、凝視しつつも自身の興味の強さを気付かされ(あるいはおののいて)、直後にほとんど後ろめたさに似たものとして若干目を背けてしまう、そういった心の動きが起こるのは同年代の女の子全てに対してではなかった。感情の芽生えみたいなものが大体において遅いというか、どちらにしろ乏しかったこともまた事実であったから。
     僕は彼女の顔を見ないようにと視線を逸らせながら、やはり興味を抑えきれずに、結局は何度か視線の隅にその顔を捉えていた。微かに収まる視界の中から相手の視線の向きを受け取り、あくまでも相手に気づかれまいとしている最中にも、もう少ししっかり顔を見てみたいと何かの機会を窺っていたのだった。

     僕には人の顔や特に目を凝視する癖がある。それに対しては現在ではいい歳となった自らにありながら、どうにも収めることの難しい衝動的な欲求として居座り続けているのには辟易としているのだ。人の目を見ればある種のことは感じることは出来る。ただ結局は何かを分かったつもり、ふりでしかない。たとえば誰かがあることを考えたとして、相手の目を見たからといって具体的に何かが分かるわけではない。如何にも当然だ。
     敢えて言えば、何かが分かりそうといった感じがより強く錯覚されるというところだろうか。
     通り過ぎる人の顔ならば2、3秒ですれ違ってしまうからいいが、あの時は彼女の家の目の前で、僕は何も言わずにただじっと視線を送っていたのだ。
     自分の行動は当然気味悪がられても仕方が無いなと、今にしてみればごく自然な相手の反応だと言えるかもしれない。ただ当時は11、12歳の子供で、恋というものを実際には何も知らなかった。どういった感情を引き起こすのか、どこからの感情が恋で、それに至らない感情とは一体どこが違うのか。同学年のある少女に対して、憧れや敬いに近い感情と親近感を持ったことはあった。が、よくよく思い返してみればどちらかと言うと年長の女姉弟に対する思慕にほど近く、恋という正体不明の観念に化けることは無かった。何も知らない状態だった、そう観念的な恋すら。

     随分と長い一時にも覚え、しかしこちらが見つめていたのは1分にも満たないだろう。やがて彼女が家に入ろうとした時、こちらを一瞥する。瞬間の目は僕を軽蔑したかの見定め方で――。
     かつての視線へ現在からの意味付けが正しいかそうでないかは結局分からないが、ただ少なからず、得体の知れないものを不意に目の当たりにした時の警戒感らしきを両目は表していた。
     少女の視線は今になってみれば当然だなと理解しつつも、当時感じたことと言えば、結果として僕に対しなにがしかの興味を持たれたかもしれないといった手触りだった。自分でさえはっきり整理出来ずいくらか掴みかね持て余す、淡い、根拠のほどない無闇な期待。
     さらに現在になって振り返ってみるに、あの時の彼女の瞳に映る軽蔑や不安を表すに近い色は、あくまで心の表面しか指していなかったような気がして――つまり他人の行動に対して自らの意志がもたらした反応ではあった。とはいえ、とっさに半ば反射的にとりあえず主張する、児童期からの脱却を果たしかけ本格的な社会性を獲得しだしたくらいの年齢の最も初期的な段階に表れやすい、一種の習慣に近い女子児童の心理であって――、心の底では興味を惹かれていた部分があったのではないか、と。玄関を開けたのち一瞬立ち止まり、斜めに振り返られた顔ではあっても、相変わらず僕を直視して見据える姿を思い出すにつれ、これらの記憶をより確かに辿ることが出来る。何かが胸に引っかかったのではないかと信じないわけにはいかなかった。
     そして内奥に宿ったものは僕にとって好ましい変化をもたらすかもしれないと、知らずに生まれ未だ少女自身にはっきり意識されることなくすぐさま隠された、心への色付きの仄めかしからどうしても目を逸らせずにいたのだ。




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