スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    エッセイ(物語構成)【11】BONBON!~4





    (2297字)
     私はトイレに立ち上がった途端に後ろへ向かってふらついてしまい、両手を中空に漂わせ何か掴む物はないかと足掻くも、どうやら無駄だったらしい。奥の半個室を仕切っている壁とそれを支えている柱に左肩をしたたかに打ち付けた。
     なにか尖った部分が深く肩に食い込んだ有様で、一瞬痛みのあまりに素っ頓狂[スットンキョウ]な声を挙げそうになり、それを堪[コラ]えの顔を上げてからカウンターのほうに向き直ると、体当りした音がかなり大きなものだったことに周囲の視線で気がつかされてしまうという、酔漢[スイカン]のとんだ恥晒しっぷり。さらに顔を赤くいくらか青くもしつつ、うつむき右手を顔の前で衝立[ツイタテ]にして他の客に見られないようにしながらトイレの前へ向かった。

     真っ直ぐにしておくことが難しく、どうにも身体が揺れてしまい数秒ごとに左右と壁に手をつかないといけない。床を汚してしまいながらもなんとか用を足すと、肩やら腕やらをあちこちにぶつけるのも厭[イト]わず、二人のもとにとりあえず戻ることにする。テーブル席の前ではいつの間にか目が醒めたらしいK尾は、いつからか朦朧[モウロウ]としているR立を肩に抱えて待っていた。
     あのさ、「もう、あれ、あれだ……あの、一旦出て、出てからどうしようかさ、考え、よ」私は舌が回らなくなっていることに気がつき、それでも目の前のへべれけよかはマシだなどわずかな頼りない最後の自尊心に凭れ掛かり、二人を何とかして外にだして酔いを覚まさせなければ、ぅうん? っあぁ、そう、しようかとおもって、ぁあそだよな、おれも、おぉそろそろかなって、そそそ、ろそろでたほうが、いい、い……かな。
     K尾とはなんとか意思の疎通を図れるようだったが、まともに言葉が浮かんでこない状態で思考は途切れ々々で訥々とし、その合間にはふっと目を閉じて身体を頼りなくふらつかせた。

     目の前の酔っぱらいの意識がまだ保たれているうちに店を出なければいけないと、少しばかり責任感を奮い立たせては、無理矢理に素面状態へ近づけなければならんと自らを騙し々々導く。今にも肩に掛けた腕がずり落ちて後ろにでも倒れ込みそうなR立を、こんな状態の彼では到底支え切れるはずがないのだ。……もうじき奴も、酔いの暗黒面に呑み込まれてしまうだろう。
    「あの、すいま、せ……ぁああの、すいませ、会計、おあいそを」
     カウンターに向かって声を絞り出すと、振り向いた小柄な板前は少しだけ怪訝[ケゲン]な顔をしてみせたような気がして、すぐに普段の力ない笑顔に戻ると『今日はいっぱい呑んだね』と言った「らしい」。こんな状態の彼らから回収出来るのかと不安になってしまう貧乏性分であっても、それにしたってレジ前でもたついているのは恥ずかしいのでまとめて払うことにした。「大丈夫? ちょっと呑み過ぎかもね」背中に受けたその言葉が誰の口から発せられたものか、憶えていない。

     数日後例のガタイの良い友人も含め四人で集まり、あの日のことについて話した。失敗しただの俺は体調が悪かったし酒が悪かったなんて言い出すのもいながらも、その日いなかった彼を除き各々、いくぶんの反省をしているようだった。私も含めて。
     話は反省会だけで終わらず、ふざけ半分の笑顔を口元へ忘れず含めつつも、いつのまにか内容は剣呑なものに傾いていった。
     K尾R立どちらが言い出したか忘れたが、『今日はいっぱい呑んだね』と台詞をおじさんの喋り方で真似したあと、絶対に会計が間違っていると文句をのたまった。私はかなりの貧乏性ゆえか、メニューを注文するたびにある程度概算を出していたので、加えて新しく購入したボトル二本分を含めると大体提示された金額で合っていたはずなのだが。
     その主張をする根拠としては、最近店の経営が芳しくないから、だとか。徐々に減っていく収入を少しでも補填[ホテン]するためという無茶苦茶な理由、有体に言えばボッタクったのだと友人は不信の目を向けているのだ。そういえば奥のテーブルにはあの時間帯に一度も客は来なかったことは確かで、カウンター席も埋まってはいなかった。しかし、いくら我々がひどく酔っているように見えたとしても、上手く金を誤魔化せるかどうかは分からないし、バレたときのことを考えればそんな真似は出来ないだろう。

     ふと「あの店の人達、ホントにそんなことするかな」の言葉をぼそりと、しかし何かの確信に近いものを抱いているかのように口にした。
     当日そこにいなかった新しい友人である彼は、周囲から重ねられるたび段々と激しさを増していくかに装う声へしばらくは黙って耳を傾けていた。まだまだ皆の輪の中にまでしっかり馴染み切れていないと感じている者としての、遠慮がちの軽い同意を示していると見えなくもない。その姿であったことはあった。
     しかしどうしても支払いをした私自身に不確かな記憶しかないため、こちらの弁護よりの気分を心許[モト]なくさせつつあったのを後押ししたし、残り二人の口を多少重くさせるだけの効果はあったのだった。

     二、三年前から、決して古い顔ではなくとも私たちは一週間に一二回くらいは通っていて、一見さんではないのだ。仮に上手く誤魔化せたとして客が何も言って来なかったとしても、会計のときにでもおかしな感じを与えてしまえば、それが実際にどうだったかは別に二度と店を利用しなくなるのでは。常連が来なくなることの減収のほうが、中、いや短期的に見ても言うまでもなく大きいはずだ。ボッタクリが成功したとしてもたかだか数千円を余分にレジ(もしくはフトコロ)に入れるだけ、次にまた利用すれば一万円近くはそこに落とすのだから。




    [貴方の応援が励みになります!!]

    エッセイ・随筆ランキングへ
    にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
    にほんブログ村
    関連記事
    スポンサーサイト

    テーマ : 居酒屋
    ジャンル : グルメ

    天気予報

    -天気予報コム- -FC2-
    プロフィール

    Ununz

    Author:Ununz
    Ununzです。自作小説・エッセイ・他雑文・ 夢日記・旅行記を発表していきます。御用の方は[junejulyonline55@gmail.com]か、ページ下部にあるFC2メールフォームからお願いします

    なおリンクを随時募集しております。相互リンクを御希望の際はカテゴリ【リンク関連】へコメントを頂ければ助かります

    ランキングに参加しています
    まだまだ、もっと大きくなります。これからです
    最新記事
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    全記事表示リンク

    全ての記事を表示する

    お気に入り 修正版
    登録&ひろがるリンク(BlogPeople用)
    ブロとも一覧

    LEVEL1 FX-BLOG
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    メールフォーム

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    CustomRssReader
    村内回覧板
    QRコード
    QR
    カウンター
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。