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    エッセイ(物語構成)【1】自分がいなかった頃~1



    (1530字)
    1  
     小学校低学年くらいまで、僕は僕のことが分からなかった。自分がどういった人間なのか上手く理解していなかったということではなくて、自分自身を指す枠の範囲がほとんど把握出来ていなかったという意味で。

     自宅に繋がる細い路地を抜けると、目の前は古くからそこに住んでいる家族の一戸建てがあり、左右には道が続いている。右を真っすぐ行って交差点にぶつかるとその斜[ハス]向かいには警察署があって、左を道なりに進めば駅前へと伸びる大通りにやがて接続する、片側一車線の狭い道路に突き当たる。両方とも歩いて二三分以内の距離だったが、友達の家にいくまでにはそんな時間すら必要ないほどに近かった。
     彼と友達になった時期は、これまでの人生の友人遍歴[ヘンレキ]における年表の中でもほぼ最初期に位置していた。まだ幼い僕にとって、『友達』という対人関係は初めて触れるものだったように思う。

     T君は饅頭[マンジュウ]のようなまんまるとした顔をしていた。でこは広く、目は仔猿のようにキラキラと周囲の対象に忙しく注がれ――、そして彼の話す言葉は大体が理解出来なかった。それは、現在では忘れてしまっている分もあることはあるにせよ、それよりどんな目的で彼の家に遊びに行ったのかがどうしても思い出せない。さらに言えば、遊びにいくという行為が何を指しどのようなことを意味しているのかすら、本当に当時の自分が分かっていたのか疑わしいのだった。
     彼の家は三部屋かひょっとしたら二部屋くらいで、お世辞にも広いとは言えない間取りだった。集合住宅特有のなんとも形容しがたい臭いは後年まで僕の苦手なものだったが、初めてそれを嗅いだのは多分T君の家のドアを開け、一歩足を踏み入れたときではなかったか。
     部屋の中では、ファミコンゲームを彼がやっているところを黙って見ていた。母親の姿は見えなかったので共働きだったのかもしれない。それはウチも一緒だったので、周囲に家族がいないのかとを気にしてみたりもなかったが。
     そこで結局、僕は何もしなかったような気がする。本当を言えば『友達』などという関係に勝手に当てはめたのは現在の僕であって、当時はそんなこともよく知らなかった。自分とTくんとの間柄については、街ですれ違う年齢の同じくらいの他人とは当然異なるし、それでいて、学校で別クラスの同じ人間を何度か目にした際に「ああ知っている顔だ」として一瞬だけ心に立ち止まる関係とも違うと、そういう風に感じたことは一度もなかった。

     彼の家に遊びに行ったのは二三回だったろうか。いつから関係が途切れたのかも分からないし、それを惜しみもしなかった。寂しいといった感覚も正直に言って一ミリもなく、正確に言えば、彼についていつの間にか全く関心がなくなっていた。よく分からない関係が勝手に始まり、気づかないうちに終幕が迎えられたという説明が最も正しく表している。
     後に親から聴いた話によると、彼の家族はいつだったかにその部屋から引越しをしたのだとか。何かトラブルがあったみたいだという話をどこかで耳にしたそうだが、あまり定かな内容については知らなかったようで、それ以上詳しく尋ねることもしなかった。
     親が知っている断片的な情報の中に、転居先は二つ上の階の以前より通りから奥側に引っ込んだ部屋だという異様な顛末[テンマツ]が含まれ、しかしさすがに子供心には理解をはるか超えていたというのもあり、確かなこちらからの反応といったものはなかった。それよりさらに、彼のことについて一切興味がなくなっていたからとの理由もあったから。
     横目に見た母はおかしな話ねなどと口にしていたが、『友達』の顔は輪郭を残して暗転したま
    ま、やがて窓から覗く青空に馴染んで姿形は見えなくなっていった。




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