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    夢見【10】アンファンテリブル(了)






    (2000字)
     とある親子が会話をしている。子供にお遣いを頼むという場面。どこかに買い物に行くようだが、その中身を再度確認しているのだ。

    「サーティーワンアイスクリームに行って、さっき教えたものを買ってくるのよ」「わかってるよ、ママ」
    「あのね、アイスが溶けないように、冷たい塊を一緒にもらってくるんだよ」「うん、さっききいたやつでしょ。氷じゃないやつね」
    「そうよ、ド・ラ・イ・アイスって言うの」
    「ドライアイスでしょ、ぼく知ってるからさ。もういってくるね」
    「それじゃあお願いね、帰ってきたら一緒に食べましょうね。ママはお洗濯をしないといけないからね」
    「うん、それじゃいってきます」
    「車に気をつけてね」

     三十手前といったところで背は高くなく、痩せ型である。控えめに癖付いた化粧のせいもあり、人目を引く華美さは感じさせない。にしても、年齢不相応というほどでないちょうど落ち着いた物腰と穏やかな表情のなかに、若い母親の誰もが持つことを望む、強さと慈愛を兼ね備えた母性の準備が整えられつつあるところをかいま見せる。
     息子は八歳、もう親の後をどこまでもついて回ったり言うことを黙って聞いていただけの頃とは違う。これからは小学校でも中学年生として、自分の主張や感情が相手に伝わるようにしっかりと説明する態度が求められる。出来ることからでも家のことや親の手伝いなどへと積極的な関わらせが、情操面でも教育に良い影響を与えるだろう。

     そういったわけで、今回はとりあえずお遣いを頼もうと母親は考えたのだった。それも子供の好きなアイスクリームだったら、喜んで行ってくれるのではないか。店員に注文を伝えてお金を渡し、自分が言ったものとちゃんと同じか確認し正しいお釣りを受け取る。店から帰ってくるときもアイスクリームを早く食べたい気持ちを抑え慎重に焦らず、容れ物をあまり揺らさないようにしながら周囲の車や人にも気を配らなければいけない。
     ちゃんと教えた通りの物を買ってきてお釣りも正しく、それでいて時間が掛かり過ぎて中身が溶けてしまったり形が崩れたりしていなければ満点だ。三番目の項目についてはドライアイスがあるから心配しなくてもいいだろう。

         無事に帰ってきたら沢山褒めてあげて、好きなアイスクリームを沢山食べさせてあげよう。私も子供にしっかりと感謝の気持を伝え、美味しく戴きたい。母親は息子がいま何をしているだろうかと想像し、思わず笑みがこぼれた。
     もちろんどこかで失敗してもちゃんと出来たところを評価してあげて、どこが間違えたか一緒に考えて次の自信につなげてあげればいい。

    「ただいま~」
    「おかえりなさい。ちゃんと出来た?」
    「うん、もちろんだよ」
    「そうね、どうもありがとう」
    「はいママ、中をあけてみて」
    「ふふ、すごく楽しみね」
    「うんっ、早く食べたいよ」


    「あ……あれっ、これって、あの、ドライアイスじゃ、ないの……かな」
    「うん、その、ドライ……なんとかってのがわからなくて、でもアイスがとけちゃうから、それでコンビニで」
    「……氷を買ってきて入れたの?」
    「うん、ごめんなさい。ぼく、ママの言ったことをわすれちゃって」

     軽く息をつくがそれは落胆のため息というよりも、緊張の糸が緩んでふっと漏れたためのそれだった。ううん、いいのよ。ママも上手く言えなかったから分からなくなっちゃったのね。

    「ごめんなさい、ママ」
    「そんなことないわ。たくさんのことが上手く出来たのよ。さあ、アイスを食べましょうね。あら、氷が入っていたから溶けないですんだのね」
    「うん、次はもっとちゃんとやるから」

     暗い部屋で女は中央の椅子にうつむき加減に座っている。頭上の弱い明かりに照らされている状態から、しずかにゆっくりと顔を上げるに従い光が徐々にその前面を映しだす。次第にその女があの母親であるということが分かる。
     肩は感情の葛藤に晒され震えていた。目には涙がたまり顔は若干青ざめ、唇を噛み締め嗚咽をこらえている姿に見える。

    「私、どうしたらいいんでしょう……」
     先の出来事は一件落着といった感じだったはずが、どうやら母親はあらぬところから相当の苦悩の種を抱えなければならなくなったように見受けられた。
    「本当に、自分の子供のことが、分からなくなってしまいました。なぜドライアイスを店の人に渡されたのに、それを捨てたのでしょうか。なぜわざわざコンビニで袋入りの氷を買ったでしょうか」
     息子は知っていてわざと間違えたことをした。それは子供なりの稚拙なものではあっても、親とのコミュニケーションを求めたために直後には打ち明けられるイタズラというわけでもなく、ごく自然と、本人から知らせてこず。母親を困らせるつもりの遊びだったのか、しかしそういった様子もなかったし普段は良好な親子関係のはずだった。
     人を騙すことに何の躊躇いもなく、平然と、息を吸って吐くように、地面を這う小さな虫の姿を確認した後に何の感情も持たずにそれを踏み潰すようにも、そこには彼の心躍るものさえないのに。彼は嘘をつくための人間なのかもしれない。
    「子育ての仕方を間違えたのでしょうか?」




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